トランプNATO発言の背景  アメリカはローマ帝国と同じ道をたどるのか?(下)

(この記事の初出は2024年2月13日)

さらなる覇権後退を招いたバイデンの弱気

 このトランプの後を引き継いだのがバイデン大統領だが、「世界の警察官」を下りて覇権を後退させた穴を、まったく埋めきれていない。埋めきれていないばかりか、ますます弱体、衰退させている
 バイデンほど弱気な大統領はいない。その弱気のおかげで、ウクライナはいま窮地に立たされている。戦域を国内の防衛のみに限定させ、武器も限定すれば、戦争に勝てるわけがない。まさに、プーチン大統領の「核の脅し」に屈したかたちだ。
 かつて、ケネディ大統領はソ連の脅しにけっして屈せず、キューバ危機を乗り切った。プーチンに舐められるようなアメリカ大統領であってはいけないのだ。
 もう一つ、バイデンが覇権後退を招いていることに、不法移民の激増がある。移民はともかく、不法移民の流入を止めないのは、いくらリベラルとはいえ行き過ぎである。
 ローマが滅んでいったのも、移民が増えたためだった。

ゲルマン民族流入と米不法移民は同じか

 アメリカは「移民の国」である。アメリカは移民がつくった国であり、移民はアメリカの発展の原動力である。
 ローマも繁栄期には、移民が国を支えた。ローマ皇帝と元老院は、移民でも軍に志願すれば市民権を与え、さら拡大した領土(地中海世界全体)を支配・安定させるために、占領地域の住民にも市民権を与えて統治した。
 しかし、移民が増えすぎると、国内での市民との対立・分断が進み、治安が乱れ、混乱が起こるようになった。いまのアメリカのブルーステート(民主党州)の聖域都市で、治安が悪化する状況とそっくりである。
多くの歴史書が語るように、ゲルマン民族の流入が加速し、彼らがローマの内部深くにまで入ってきたことで、ローマの社会と文明は崩壊に向かった。
 メキシコ国境からの不法移民激増問題は、ローマ末期のゲルマン人流入問題と極似している。
 このままバイデンの弱気な世界関与政策と移民政策が続けばどうなるのか? また、トランプが返り咲いて、「アメリカ・ファースト」政策を再開したらどうなるのか?
 いずれにしても、アメリカの覇権は衰退する。なにしろ、このままでは「ホワイトハウスが老人ホーム」になってしまうのだから、世界の行く末は暗すぎる。

4者4様、著名投資家の考える未来

 アメリカの世界覇権が後退していく現実に対して、著名投資家たちはどう見ているのだろうか? 未来を見据えなければ、投資などできない。
 そこで、ジム・ロジャーズ、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、レイ・ダリオの4人の動向を見ると、4者4様である。
 ジム・ロジャーズは早くからアメリカを見限って、シンガポールに移住した。これは次の覇権が中国に移ると予想したからだ。
 反対にウォーレン・バフェットは、バークシャーの資金の多くをアメリカ企業に投資している。アメリカの世界覇権はまだまだ続くと考えているからだろう。彼のメインバンクのウェルズ・ファーゴは、国際業務をほとんど行っておらず、国内営業に特化している銀行である。アメリカ経済が成長を続けなければ、ウェルズ・ファーゴの成長もない。
 ジョージ・ソロスとレイ・ダリオは、ドル基軸通貨体制の崩壊を常に警告している。アメリカ覇権の持続性にも懐疑的である。ただし、ソロスは中国経済の崩壊を早くから言っているので、覇権国なき多極化世界を想定しているのだろう。
 一方のダリオも、アメリカ覇権の後退は間違いないとしているが、次の覇権国がどこになるかは言及していない。

(つづく)

 

この続きは3月19日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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