2025年4月16日 COMMUNITY 教育レポート

Tricultural Voices from Keio Academy of New York #10

塾長と@KANY図書室

ビリギャル、「やる気」の科学を語る
Sayaka Kobayashi a.k.a. “Biri-Gal”
The Science of Motivation Cultivated in the Ivy League
巽 孝之
(慶應義塾大学名誉教授/慶應義塾ニューヨーク学院長)

去る 3月 22日(土曜日)、小林さやかさん、通称「ビリギャル」をオムニバス “Triculture”講演シリーズの講師の一人としてニューヨーク学院へお迎えした。

思えば2023年 9月、入学式のためニューヨーク学院に来られた伊藤公平慶應義塾大学塾長のたっての願いで、新設なった図書室に小林さんをお招きし、私自身も加わって「学問のすゝめ 21プロジェクト」の一環として鼎談を行ったのが初対面だった。(https://www.keio.ac.jp/ja/gakumon150/)。

ビリギャルといえば彼女の恩師・坪田信貴氏が 2013年に出した著書『学年ビリのギャルが一年で偏差値を 40上げて慶應大学に現役入学した話』がベストセラーとなり、 2015年には有村架純主演で映画化もされて日本アカデミー賞など数々の賞に輝いたので、私もビデオで鑑賞した覚えがあった。しかし、当時の私は、そもそもビリギャルが実在するのかどうか疑っていたので、まさかニューヨークで初対面を遂げるとは思わず、驚いたものである。

小林さんは、聖心女子大学大学院で教育学を専攻中に第一著書『キラッキラの君になるために――ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス、 2019年)を刊行し、その二年後の2021年より、コロンビア大学教育大学院で認知科学プログラムに所属したので、学院を初訪問されたのはまさに修論を執筆中だったわけだ。しかし、すでに大学院の最初の一年が終わった段階で第二著書『ビリギャルが、またビリになった日――勉強が大嫌いだった私が、 34歳で米国名門大学院に行くまで』(講談社、 2022年)を刊行されており、それが大変面白かったので、私自身の学院長ブログ “Headmaster’s Voice”第 32回で紹介した。そこでは、小林さんが教育現場でよく言われる「地頭」という概念を根本から疑っておられることについて、文化研究の立場より再解釈を試みた(https://www.keio.edu/about-us/headmasters-voice)。

彼女は昨年 2024年 4月に祥風祭に遊びに来てくれたので、学院訪問は今度で三回目ということになるが、これが実現するに当たっては、塾長との鼎談の時は広く学院生たちと交流できなかったため、ほかならぬ現役生徒たちから「ビリギャルと話したい!」と強くリクエストされたという事情が大きい。現在の小林さんはコロンビア大学大学院の修論を見事に書き上げ、認知科学の知見をフル活用して新しい著書『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版、 2024年)を刊行され、いまや認知科学者ならぬ “motivational speaker”として、日米のさまざまなところで講演に引っ張りだこ。現時点では新規事業のため帰国し、東京を拠点としている小林さんがはたして本当に学院まで再訪問してくださるかどうか、いくつか難しいハードルがあったものの、ついに実現してこれほどうれしいことはない。

 小林さんの最新刊は、オビに「見せてやるよ本気」と謳われているが、文字通り「見せてやるよやる気」と言い換えてもいいほどの「モチベーション」すなわち勉強を素材にした「動機付け」について徹底的に語った名著である。現在 の“motivational speaker”という肩書きは、北米では学校にも企業にも招かれる講演家として珍しくない。つまり小林さんは、いかにして「モチベーション」が形成されるかを説明する理論家というだけではなく、具体的に彼女の話を聞く人に「やる気」を起こさせるパフォーマーなのだ。

そもそも「やる気」とは何なのか、それはいつどのようにして「本気」に変わるのか。 21世紀版の「学問のすゝめ」とも呼ぶべき小林さんの講演から絶大な刺激を受けたニューヨーク学院生たちの率直な言葉を、ここにお届けする。

塾長と@KANY図書室

ポジティブなバカを目指す
飯田 カンナ(IIDA Kanna)

ある日急に「この映画、見るぞ。お前のためになる」とお父さんに言われて家族で見ることになった映画が、『ビリギャル』だった。この時私はまだ小学生低学年で受験は身近には無かったが、さやかさんがものすごい努力をしていたのが印象的だった。

今回そんな『ビリギャル』の元になったさやかさんが学院に訪れてくれると言うことを聞いて、とても楽しみにしていた。いざ会場に入ると、緊張感が漂っていた。しかし、さやかさんが話し始めると一気に雰囲気が変わり、会場が明るくなった。砕けた話し方で、レクチャーを聞いているはずなのに、自然に笑いが出てくるほど楽しかった。話し方は砕けていても、話している内容はとても濃くどれも人生の教訓になるようなことばかりだった。

特に、「私は挑戦をすることで幸せになれる」と言う話が一番印象に残っている。

人間の最終目的は幸せになること。そして幸せには2種類ある。そのうちの一つに、ユーダイモニック(Eudaimonic)と言うものがある。このユーダイモニックは、達成感を感じることで得ることができる。なので、挑戦をして達成感を得ることは人間幸せを感じるのに必要なことだ。

私は新しいことを始めるのが好きだ。自分のことを誰も知らない環境に身を置いて新しいコミュニティーに足を踏み入れることにも、ワクワクした気持ちになる。しかし、この感情がどうして湧くのかはわからなかった。さやかさんがその答えをくれた。最後に、さやかさんは最後に、「私は日本にもっとポジティブなバカが増えて欲しいんです」と言った。私も物事を前向きに考えながら、思い詰めない、ポジティブなバカを目指します。

ガクモンノススメ撮影中

かつて「ビリ」だったわたしへ
応 暢 (Chang Ying)

残念ながら、今回のビリギャルの講演会には参加できなかった。というのも、ちょうど同じタイミングでイエール大学の数学コンペティションに出場していたからだ。どちらに参加するか迷ったが、かつての「ビリ」だった自分が努力を重ね、イエールに行けるまでになったことを考えると、その選択に迷いはなかった。

ビリギャル本人には会ったことはないが、映画は何度も観た。特に12年生のとき、東京からニューヨークへのフライトで久々に観た際、自分でも理由はわからないが、一人で号泣してしまった。振り返れば、私も間違いなく「ビリ」だった。

2年前、数学科の先生から「このままの成績では数学をFとりますよ」というワーニングメールを受け取った。しかし、この学校で、私にとっての「坪田先生」と出会えた。10年生の頃、彼は授業を担当していなかったにもかかわらず、私の相談に乗ってくれた。そして、11年生になり、私の数学の授業を担当するようになった。数学の基礎もまったくない私が、どんなに初歩的な質問をしても、彼は怒らず、一つひとつ丁寧に教えてくれた。

その努力を積み重ねた結果、2年後の今、私はイエール大学の数学コンペティションに参加できるまでになった。もしかすると、私もビリギャルのように、自分の可能性を広げることができたのかもしれない。

あの頃の私と比べれば、今の私はまるで別人だ。この学校に入ったからこそ、内部進学という環境のおかげで、成績表の数字に縛られるのではなく、自分が本当に楽しめることを追求できるようになった。確かに、私の成績は上位ではない。しかし、課外活動を通して自分の価値を見つけることができた。

やりたいこと、目指したいことがあるなら、いつ始めても遅くはない。どんなにビリからのスタートでも、自分らしい人生は築けることを信じている。

レセプションの様子

人生の先輩によるギャルマインドの心得
鏡 嘉月(KAGAMI Kazuki)

2月22日、今学期二度目となるOmnibus “Tricultural” Lectureが開催された。

この講義は、外部講師の方に本学院までお越しいただき、多様なトピックについての紹介・解説をしていただく催しである。

また、講演前後に開催されるレセプションでの対話の機会を通して、生徒はアメリカ・日本文化に加え、慶應義塾の文化といったトライカルチャーの精神を互いに深め合いながら、講師の方々より学びを得ている。

今回は、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話』で知られる小林さやかさんが、はるばるこちらまで足を運んでくださった。

私自身、過去に映画 『ビリギャル』を観たことがあり、幼いながらも小林さんの存在を認識していたため、彼女のレクチャーを随分と前より楽しみにしていた。

そして、実際にお会いしてみると小林さんは高校時代からギャルと呼ばれていたこともあってか、現在でも明るく気さくな様子が様々な場面より窺われた。

講演では、彼女のギャルマインドが十分に生かされたトークとともに、聴衆からの声援や笑い声などが飛び交っており、今振り返ってみると私がこれまで参加してきたうちで一番と言っても過言ではないほど、賑わいにあふれたレクチャーに仕上がっていたと感じる。

今回の公演を通して、小林さん自身の生き方やモットーなどの学びを参考にさせていただきながら、今後私も慶應義塾生の一員として前向きに生きようと思う。

モチベーショナル・スピーカーの真髄
牧山 あかり(MAKIYAMA Akari)

『ビリギャル』は、ギャル女子高生が受験を通じて逆転劇を成し遂げる姿を描いた映画で、世界中で高い人気を誇り、多くの受験生に希望を与えてきた。私もその一人だ。

私が慶應義塾ニューヨーク学院の受験を決めたのは、ちょうど入試試験の3ヶ月前のことだった。これまで海外の学校やインターナショナルスクールに通っていた私は、受験制度について何も知らず、入試にテストがあることを初めて知ったのもその時だ。次の日、母に引っ張られて予備校に行き、数・国・英の模試を受けた。塾長に監視されながら必死に取り組んだ小部屋の中で、鉛筆の音だけが響いていた。模試の結果が返却されると、私は絶望的な気持ちになった。国語と英語では平均点を超え、最高点も取れたが、問題は数学だった。100点中5点という結果を見たとき、衝撃を受けた。塾長からも「諦めた方がいい」と言われ、帰りの車の中で涙が止まらなかった。

次の日、母は私を無理に勉強させることなく、ただリビングの机にポップコーンを置き、一つの映画を流してくれた。それが『ビリギャル』だった。映画を見て、「ビリギャル」こと小林さやかさんの懸命に努力する姿に感動し、彼女のように自分も頑張れば変わることができると気づいた。次の日から、週に7時間半塾に通い、SNSアプリを削除し、友達とも会わずに勉強に専念した。その結果、私は今、ニューヨークで充実した寮生活を送っている。

私の現在の生活は、『ビリギャル』の小林さやかさんに背中を押されて得られたものであり、彼女の存在がなければ今の自分はなかっただろう。そんな彼女が学院に来て、私たちのために講演してくれた。「ポジティブであることの重要さ」や「失敗を恐れないこと」など、日々忘れがちな大切な言葉を私たちに伝えてくれた。彼女の講演は、進路や将来への不安を吹き飛ばし、私の心に鮮やかな希望を与えてくれた。彼女の存在や言葉は、これからも私の背中を押し続けてくれるだろう。『ビリギャル』こそが本物のモチベーショナル・スピーカーだ。

「ビリ」であれ
石原 瑚子(ISHIHARA Coco)

「自ら『ビリ』になりにいくのは、凄く大きなチャレンジをした証じゃないですか」

 去年の末に観た動画で、ビリギャルこと小林さやかさんはそう言っていた。私はこの言葉に心を打たれた。なぜなら、自分こそが正真正銘のビリだったからだ。

 私の学校では、数学の授業でレベル分けのクラスが設けられている。私は自分のクラスのビリとして、振り落とされそうになりながら生きている。中学時代をアメリカで過ごした私は、日本の数学に全くと言ってもいいほど追いつけなかった。高校入学当初は因数分解もたすき掛けもわからず、なんとか友人に追いつくために必死で勉強していた。それでも、今まで沢山の努力を重ねて来た友人たちに追いつけないことは、今も変わらない。そんな中、一緒に数学を勉強していた友人が私にこんなことを言った。

「絶対にクラス落ちるなよ。今のクラスにしがみついていた方が学べる事も多いはずだから」

その言葉を聞いた時、ふと、さやかさんが講演会でこんなことを言っていたのを思い出した。「他人は結果でしか判断しないかもしれないけれど、ここまで頑張ってきた経験は自分の中で生きるんだ」。

今の数学が将来役に立つかはわからない。結果として来年はクラスが落ちるかもしれないし、どれだけ勉強をしたってテストの点数は上がらないかもしれない。でもここで頑張った記憶はきっと、私にとっての必要なプロセスだったのだとそう感じられるのなら、ビリだって悪くないと思える気がする。

さやかさんと友人の言葉を信じて、自分に満足できるくらい頑張っていたい。

本当の幸せとは何か
古川 瑞佳子(FURUKAWA Mikako)

私は今回「ビリギャル」こと小林さやかさんが学校にお越しになり私たち生徒にお話をしてくださることを知り、とても胸が弾みました。私が小学生の時に「ビリギャル」の本を読んでから、小林さんは憧れの存在だったからです。今回、実際にお話を伺って、ご本人だからこそ話せる内容を拝聴することができ貴重な機会を頂きました。

小林さんの「モチベーションの科学」がテーマのお話の中で心に残ったことは、「人は、否定的なことを考えた瞬間に普通のことすらできなくなる」ということです。当たり前にできる自己紹介を1000人の前で同じことができるか、という想像しやすい例をあげて説明してくださいました。普段の勉強や、受験でもパフォーマンスを維持するためにはいかに精神面が安定していられるかが大事だということがよくわかりました。

また小林さんは受験に成功した秘訣は一度も慶応に行くことが不可能だと感じなかったからだという回想に繋げて、実力以上の大きな目標を設定することの大切さについて言及されました。

例え努力しても達成できなかったとしても、失敗を恐れて何にも挑戦しない人に比べてはるかにレベルが高いということもおっしゃっており、私は建設的に人生を歩んでいくことが大切だと思うあまり、大きな挑戦を避ける傾向にあることに気づかされました。今回のお話を聴いて、自分の実力で目標を達成した時に感じる「本当の幸せ」を追求する生き方を、アメリカで新たな挑戦を続ける小林さんから学ぶことができました。

挑戦は自分を豊かにする
宮﨑 仁美(MIYAZAKI Megumi)

私は文化祭委員としてさやかさんにインタビューをさせていただいた。さやかさんは挑戦を恐れず、色々なことに挑戦していて、キラキラと輝いて見えた。大人はみんな仕事と家の往復で楽しくなさそうだな、と思っていたが、さやかさんは大人になることの楽しさを感じさせてくれた。それはモチベーショナル・スピーカーとして人間の行動の原理を科学的に知っているからだと思う。さやかさんのお話は科学的根拠に基づいて人間の心理を説明していて、より自分の力を発揮したい時にどうすれば100%の力を出せるのかなど、日常での私たちの悩みを解決してくれるものばかりだった。対応の仕方を知っていると落ち着いて緊張にも対応することができる。成功体験を積み重ねていくことで自分に自信がつき挑戦を恐れなくなる。挑戦は成功しても失敗しても自分を成長させてくれる経験となる。

さやかさん自身の経験を基にして話してくださったことで、挑戦は自分を豊かにしてくれるものだと再確認することができた。国語の授業でも、本来は結果ではなく過程を評価するべきであるということについて話し合う機会があった。しかし、成績などの社会の仕組み作りのために、結果だけで判断されることが多い。過程は見えにくいし、他人にはわからない部分も多いからだ。その点、結果は一目瞭然で一目で判断できるようになっている。しかし、効率ばかりにとらわれているから、成長や経験をすっぽかしてしまうのだ。

AIに宿題をやってもらうのは楽だ。しかしそれでは意味がない。効率や結果だけに囚われず、挑戦を恐れずに成長し続ける人間になりたい。

レセプションにて

(記事、写真提供:慶應義塾ニューヨーク学院)

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