なぜ「Woke」映画ばかりになったのか?
その後の経緯は省くが、山賊のジョナサンたちと小人たちの協力の下に、白雪姫は邪悪の女王と対決し、城を取り戻す。そうして、ジョナサンと結婚して、めでたし、めでたしで物語はハッピーエンディングで終わる。
しかし、これが『白雪姫』であろうか?
白雪姫は、王子様に恋される受け身の女性ではなく、山賊のリーダーと同志愛で結ばれる自立した女性である。
アカデミー賞を主催する「映画芸術科学アカデミー」は2020年、「ノミネーション条件として、作品がDEIを一定数満たすことを義務付けた。そのため、ディズニー映画に限らず、近年のハリウッド映画はみな、マイノリティ、障害者、LGBTなどが、必要がなくとも登場することになった。
その結果、映画離れ、観客離れが進んだ。今年のアカデミー賞授賞式の視聴率は、過去最低を記録している。一般大衆は「Woke」などどうでもよく、ただフツーに生きたいのだ。
意識が高い系のリベラルの物語は終焉
トランプが再選した理由の一つに、「18~29歳の若者と黒人やヒスパニックなど有色人種の支持」が取り上げられている。いわゆるZ世代、ミレニアル世代、そしてカラードの人たちまで、カマラ・ハリスが「DEI候補」と揶揄されたことを、そのまま受け止め、ポリコレに胡散臭さを感じていたのだ。
リベラルが訴える「多様性」「公平性」「人種・性別による不平等の是正」などは、若い世代にもオールド世代にも、もはや刺さらなくなったと言っていい。
アメリカは移民国家で、移民を受け入れることで国が成り立ってきた。そのため、トランプが大統領選に出馬するまで、移民を批判することはタブーだった。民族、人種による差別的な言動はできなかった。
しかし、それをトランプは可能にした。タブーをなくした点で、逆の意味での「自由」を国民に与えたのである。意識が高ければ高いほど不自由になる現実を打ち破ったのである。
ここに、意識が高い系のリベラルの物語は終焉した。『白雪姫』の大コケで、今後、ハリウッドも変わっていくと思われる。
物語は時代、そのときの文化によって変わる
そこで、最後に述べておきたいのは、どんな物語も、時代によって、そのときの文化によって変わっていく、物語は一つではなく、さまざまなバージョンがあるということだ。
『白雪姫』はグリム童話の一つだが、白雪姫を城から追いやった邪悪の女王は継母でなく実母という話がある。また、眠りから覚めるのは棺が揺れた拍子にリンゴのかけらを吐き出したためで、王子がキスしたのではないというバージョンもある。白雪姫の保護者になる小人たちが人食いの小人であったという話も伝えられている。
また、『ねむり姫』(スリーピング・ビューティ)は、姫を救った王子の実母が人食い鬼女で、姫が食われてしまうという話になっていたりする。
『シンデレラ』もグリム童話だが、初版本では、義姉らが靴に足を合わせるためにそれぞれかかとやつま先をナイフで切り取る場面が描かれている。
『人魚姫』は、最後は海の泡になって消えてしまうのが定番の結末だ。
つまり、ディズニーは、その時々の時代とその時代の文化に合わせて、キャストやストーリーを改編してきたのである。たまたま、今回の「Woke」「ポリコレ」「DEI」バージョンは、時代といまの文化にマッチしなかったということだ。(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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