今月5日にメトロポリタン美術館で開催された、ファッションの祭典「メットガラ(Met Gala)」。日本人俳優のアンナ・サワイ(澤井杏奈)もディオールのルックで登場し話題を呼んだ。テーマは、10日から開催中の「スーパーファイン: テイラリング・ブラック・スタイル(Superfine: Tailoring Black Style)」展に基づいていた。

「Superfine」は、高級スーツに用いられる極細ウールの名称で、「最高にキマっている」という意味ももつ。今回の展示は、18世紀から2025年のレッドカーペットに至るまで、黒人男性のスタイルと表現の変遷をファッションを通して体感できる、見応えある構成となっている。

展示は12のテーマで構成され、それぞれが「ディスガイズ(変装)」「チャンピオン」「リスペクタビリティー(尊厳)」「ヘリテージ(継承)」「ビューティー(美)」「コスモポリタニズム(世界を横断する美意識)」など、スタイルを定義するキーワードで展開される。ジェンダー、階級、人種といった社会的構造を超え、個性と自己決定の象徴としての装いに焦点を当てている。
例えば、「ディスガイズ(変装)」では、奴隷だったエレンとウィリアム・クラフト夫妻が白人男性とその従者に変装して自由を得た実話を紹介。「チャンピオン(champion)」では、ジャック・ジョンソンやモハメド・アリのようなボクサーたちや、1970年代のNYニックスの伝説的選手ウォルト・フレイジャーなど、スポーツとファッションをつなぐ変革者の存在が取り上げられている。
展示の見どころ
■ ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)× アンドレ・レオン・タリー(André Leon Talley)

ファッション界の伝説的存在であるアンドレ・レオン・タリーが所有していたトランクセット(写真右)。彼は「VOGUE」誌のクリエイティブディレクターを務め、編集長アナ・ウィンターの右腕的存在としても知られる。彼のイニシャル「ALT」がペイントされたトランクは、ラグジュアリーと個性の象徴として強い存在感を放っていた。単なる荷物入れではなく、「ブラックスタイルのアイコンが何を持ち歩いていたか」を視覚的に語るオブジェだ。
■ テルファー(Telfar)× ウィルソンズ・レザー(Wilsons Leather)
2024年に発表された「テルファー × ウィルソンズ・レザー」のキャリーバッグ(写真左)。大きなTロゴが特徴で、ジェンダーフリーかつユニバーサルなデザイン。「ブルックリンのバーキン」とも称される逸品。エルメスのバーキンバッグが「富と特権の象徴」であるのに対し、テルファーのバッグは「誰でも手が届くラグジュアリー」を掲げ、多様なアイデンティティーを尊重する現代的ラグジュアリーの象徴となっている。ALTのヴィトンと並べて展示されることで、新旧のブラックラグジュアリー像を浮かび上がらせる。
■ ジョン・ガリアーノ(John Galliano)によるディオール(Dior)のオートクチュール コート

ジョン・ガリアーノによるディオールのオートクチュール コート(2000-2001年秋冬)は、前述のアンドレ・レオン・タリーが実際に着用していたもの。軍服のようなシルエットと金糸の装飾が印象的で、ファッションを自己表現とパワーの手段として用いていた彼の哲学を物語る一着だ。
■ ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams) × ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のスーツ

ファレル・ウィリアムスがルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターとして手がけた初期のコレクションの一つ。伝統的な「ダミエ」パターン(チェッカーボード柄)をデジタル風にピクセル化し、「Damoflage(デジタル×迷彩の造語)」として再解釈したもの。グレーとブラウンを基調にしたピクセル化されたカモフラージュ柄のスーツは、デジタルとクラシック、ミリタリーとストリートを融合させた現代的なダンディズムを表現している。
このルックは「Black Spills」と呼ばれる都市伝説(社会の中で黒人が見えなくされる、または姿を消すという寓話)と、スーツが持つ権力や擬態の象徴性に触れており、「見せると同時に隠す」というブラックスタイルの深層を示している。

■ ウォルト・フレイジャー(Walt Frazier)のプーマ × フェルトハット

1970年代のNBAを代表するスター選手、フレイジャーのファッション・アイコンとしての側面に焦点を当てた展示。彼は、試合外でも洗練されたスタイルを貫いた先駆的な存在であり、スポーツ、ファッション、ブラックカルチャーが交差する地点に立った人物として知られる。
プーマが彼のニックネーム「Clyde(クライド)」を冠して発売したスニーカーは、NBA選手としては異例のパーソナルモデルであり、今なおストリートファッションに影響を与えている。展示では、実際に着用していた黒のフェルトハット、雑誌「JET」の表紙を飾った際のファーコート姿の写真も紹介されている。
この他にも、ブラックダンディズムやアイデンティティを巡る数々の魅力的な展示が並ぶ本展。歴史とスタイル、誇りと抵抗が交差するこの空間に、ぜひ足を運んでみてほしい。
取材・文・写真/藤原ミナ
Superfine: Tailoring Black Style
会場
The Metropolitan Museum of Art
(1000 5th Ave.)
開催日時
開催中〜10/6(日)
日〜火・木 10:00-17:00、金・土 10:00-21:00(水曜休館)
公式サイト
https://www.metmuseum.org/exhibitions/superfine-tailoring-black-style
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