2025.02.28 COLUMN ニューヨーク アートローグ

『ニューヨーク アートローグ』第14回 2024年春のおすすめ展覧会ラインナップ、花は「メトロポリタン美術館」恒例のガラ!

Pharrell Williams (left) and Lewis Hamilton (right) are amongst the co-chairs picked by Anna Wintour. (Getty Images: Jason Mendez)

ようやくセントラルパークの木々が芽吹き始め、美術館へと足を運ぶのも心地よい季節がやってきた。春のアート・シーンはワクワク。

◼️「Superfine: Tailoring Black Style」展とガラ

場所:メトロポリタン美術館(MET)
期間:5月10日-10月26日

Pharrell Williams (left) and Lewis Hamilton (right) are amongst the co-chairs picked by Anna Wintour. (Getty Images: Jason Mendez)

タイトルからも想像できそうだが、ブラック・デザイナーが仕立てたスーツやフォーマルウェアの歴史、モダン・ブラックスタイルにおけるメンズウェアの辿ってきたファッションが展示される。「ブラック・スタイル」は単なる今時のアメリカのサブジェクトではなく、言うまでもなくアイデンティティの表現、文化の誇り、社会的メッセージを込めたスタイルでもある。今回のMETの展覧会は、その深い背景を掘り下げる重要な機会となることから注目されている。そして 「テーラリング(仕立て)」 に焦点を当てているのが興味深い。

METガラ(Metropolitan Museum of Art Costume Institute Gala)は、コスチューム・インスティテュート(服飾部門)が主催するチャリティーイベント。今年は5月5日に開催が決定。毎年世界的なセレブリティ、デザイナー、トップモデル、アーティストが500名集まるファッション界最大級のイベントの一つ。アート界からはグッゲンハイム美術館で大規模な個展が開催されるラシッド・ジョンソンも招待客の一人。ヴォーグ誌編集長アナ・ウィンターが統括し、ルイ・ヴィトンのメンズ部門クリエイティブ・ディレクターでもある音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスやコールマン・ドミンゴ、ルイス・ハミルトン、A$APロッキーも参画チーム。今年のドレスコードは「Tailored for You」で、個々にカスタマイズされたファッションといったところ。一般客は参加できないが、あらゆるメディアでカバーされるのでフォローしたい。個々のブラック・スタイルと創造性を称える今年のスタイルとは?

◼️ジェニー・C・ジョーンズ「アンサンブル」

場所:The Roof Garden 屋上庭園(MET内)
期間:4月15日-10月19日

METの屋上は、マンハッタンで一番良い季節を満喫できるスポットだ。毎年異なるアーティストによるパブリックアートは夏の風物詩となる。今年は黒人女性アーティスト、ジェニー・C・ジョーンズが選ばれた。「アンサンブル」というタイトルで、弦楽器の音響的可能性とその形態的可能性を探求するという。ジョーンズは、絵画、彫刻、紙上の作品、インスタレーション、音響作曲において、音を用いてミニマリズムの遺産やモダニズムそのものに応答し、ブラック・インプロヴィゼーションやアヴァンギャルドの音楽を駆使してきた。メディアを超えた作品が、抽象の新たな可能性を提供し、それがどのように可視化されるのか今から楽しみだ。

◼️ Rashid Johnson: A Poem for Deep Thinkers
「ラシッド・ジョンソン:ディープシンカーのための詩」

場所:ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(Solomon R. Guggenheim Museum)
期間:4月18日-2026年1月18日

Rashid Johnson, The Broken Five , 2019 (detail). Ceramic tile, mirror tile, branded red oak flooring, vinyl, spray enamel, oil stick, black soap, and wax, 97 1/4 × 156 1/2 × 2 1/8 inches (247 × 397.5 × 5.4 cm). Image courtesy the artist © Rashid Johnson, 2024. Photo: Martin Parsekian

アメリカのアート&カルチャーシーンで最も旬なのがニューヨーク在住のラシッド・ジョンソン(1977年シカゴ出身)。ジョンソンにとってグッゲンハイムでの初個展であり、これまでの最大規模の回顧展となる。その作品は世界中のギャラリーや美術館で展示され高く評価されている。視覚的に強いインパクトを持ちながら、深い社会的メッセージや哲学的な問いを投げかける。絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど、さまざまなメディアを巧みに使いこなす。例えば、音楽やブラック・カルチャー、文学を取り入れ、複雑な文化的・社会的コンテクストを表現。特に人種問題、ブラック・アート、ブラック・アイデンティティ、社会的疎外感といったテーマを取り扱い、アフリカ系アメリカ人の歴史や文化が直面する困難に対する意識的なアプローチを取り、現代社会における人種、階級、性別の問題を問い直し、自己表現と解放の問題に焦点を当てている。ジョンソンのアートは、黒い石鹸やスプレー・ペイントを使った独特な手法を取り入れ、独自の抽象的な表現が特徴的だ。今回の展覧会のタイトル「ディープシンカーのための詩」は、ジョンソンがインスパイアされている詩人・作家・教師・政治活動家のアミリ・バラカの詩から引用されている。

◼️ Neue Sachlichkeit / New Objectivity

場所:ノイエ・ギャラリー(Neue Gallerie)
期間:2月20日-5月26日

Georg Scholz(1890-1945) Of Things to Come, 1922 Oil on board Neue Galerie New York

クリムトやエゴン・シーレのコレクションでも知られる同美術館は、アッパーイーストサイドに佇むヨーロッパのお屋敷のような建物で、優雅な気分でアートを鑑賞できる格別な空間だ。「Neue Sachlichkeit / New Objectivity」展は1925年にドイツのマンハイムで企画された画期的な展覧会の100周年を記念した特別展。タイトルは新即物主義という芸術運動で、20世紀における最も重要な芸術的発展の一つとされている。第一次世界大戦後に登場した新たな芸術様式で、批判的リアリズム、社会的メッセージ、そして当時の生活の詳細な描写を特徴としている。オットー・ディックスやジョージ・グロスらは社会を鋭く批判的に、しかもウィットに描写し、一方でアレクサンダー・カノルト、クリスチャン・シャドといった画家たちは 、調和と美を追求した。独特で明確な描写作品が新鮮だ。大切なのは1919年から1933年までのドイツの政体ヴァイマール共和国の文化、政治、社会の複雑な歴史の側面が背景にあったということ。

◼️ Frick Collectionフリック・コレクション

期間:4月17日-

新しいアートだけがニューヨークのアートシーンではない。レンブラント、フェルメール、ゴヤ、ターナー、エル・グレコ、ヴァン・ダイク、フラゴナール などの巨匠の作品を所蔵する、五番街と70丁目にあるフリック・コレクションが5年ぶりに改築されて再開する。もともとは鉄鋼業で成功した実業家 ヘンリー・クレイ・フリックの個人コレクションを基に設立され、彼の死後に邸宅が美術館として公開され、豪華な邸宅がニューヨーカーに愛され続けている。13世紀から19世紀にかけてのヨーロッパ絵画、彫刻、装飾芸術を中心にした歴史的な空間に身を委ねてみる。

◼️「Pirouette: Turning Points in Design
(ピルエット:デザインの転換点)」

場所:ニューヨーク近代美術館(MoMA)
期間:1月26日-10月18日

Shigetaka Kurita. Emoji. 1998-1999. The Museum of Modern Art, New York. © 2024 NTT DOCOMO

普段の生活の中に溶け込んでいるデザイン。本展では主にMoMAのコレクションから選ばれた家具、電子機器、記号、情報デザインなど、多岐にわたるオブジェが披露。1930年代からの作品群の中には、誰もが知るものもあれば、限られた専門家や愛好家の間でのみ知られている珍しいものも。これらのデザインからは、従来の型や固定観念からの脱却を促し、素材・形態・機能における革新と進化を知ることができる。たかがデザイン、されどデザイン。デザインがどれほど人々の意識変革を促し、あるいは変化に適応する手助けをしてきたか。

梁瀬 薫(やなせ かおる)プロフィール

Photo by Kouichi Nakazawa

国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA )美術評論家/ 展覧会プロデューサー 1986年ニューヨーク近代美術館(MOMA)のプロジェクトでNYへ渡る。コンテンポラリーアートを軸に数々のメディアに寄稿。コンサルティング、展覧会企画とプロデュースなど幅広く活動。2007年中村キース・ヘリング美術館の顧問就任。 2015年NY能ソサエティーのバイスプレジデント就任。

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