ファッション誌「Vogue」編集長のアナ・ウィンター(75)が6月26日、38年間君臨した編集長をやめ、後任を探すことを明らかにした。世界一有名な雑誌編集長だそうで、映画「プラダを着た悪魔」のモデルともされる。

アナの編集長退任は、何を意味するのか?
彼女は、ファッション・アイコンでもある。細くて華奢なモデル体型、何十年も変わらないボブカットと20代女優のようなメイク。どこかに現れると、着ている豪華ブランドに誰もが興味を持つ。レッドカーペットに陣取るフォトグラファーが「Who are you wearing?(誰のデザイン?)」とモデルや俳優に聞く質問を雑誌の編集長に叫ぶ、異様な光景だ。
「プラダを着た〜」のメリル・ストリープのような「独裁」を続けられたのは、もちろん実績があるためだ。看板である表紙には、同誌として初めてジーンズを着たモデルを載せた。男性(リチャード・ギア)を初めて起用。ミシェル・オバマ大統領夫人(2008年当時)をも「世界が待っていたファースト・レディ」と表紙に。何万ドルもかかった写真を簡単にボツにするなどハイ・スタンダードを貫いた。印刷版の「グラマー」「ティーン・ヴォーグ」などを廃止し、リストラにも一役買っている。
しかし、ファッションの世界は、彼女のこれまでの実績よりも大きく変化している。周りの若い人を見ると、「流行」といったものはないに等しい。1960、70年代の流行の真似から、古着の組み合わせまで十人十色。Saks 5th Avenueなどで服を買うのは、観光客かブーマーしかいない。アメリカ人でブランドものをまとっているのはごく少数のセレブと富裕者層だ。Vogueがファッションのトレンドセッターだった時代はとうに過ぎ去った。
Vogueの厚さも20年前は2センチほどもあったが、現在はその半分だ。デジタル版は、表紙も何もあったものではない。発行元であるコンデナストは以前、タイムズスクエアのど真ん中に本社があったが、現在そのビルは、TikTokが占有する。
アナの編集長退任は、驚くほど大きなニュースにはならなかった。なぜなら「院政」に移行するだけだからだ。兼任していたVogueのグローバル編集ディレクター、コンデナストのチーフ・コンテント・オフィサーにとどまる。米メディアは「アナはいなくならない」という記事を一斉に出した。それでもコンデナストは、体制を刷新したという印象を植え付けたかったのだろう。
とはいえVogueは、セレブと高齢のお金持ち、ごく一部の人のパーティのために生き残るだろう。ボブカットにサングラス、ピンクのリップももうしばらくは生き残る。
(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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