「世界の経済の中心は、やっぱりニューヨークだと思うんですよ」日本のトップに君臨しながらも、近年はハドソンバレーに拠点を置き、”獺祭BLUE”を筆頭にニューヨークでの酒造りにも精を入れる旭酒造。

ニューヨークの街角では現地生まれの酒蔵が芽を出し始め、日本酒フェスティバルは毎度大盛況・・・日本酒人気は、いまや熱狂の域に達している。「すごく盛り上がってきていますね」笑顔でそう語る桜井博志会長だが、そんな海外での日本酒ブームを牽引していくために歩み続けている。
先日ニューヨークのジャパンソサエティで行われた講演会、そして桜井会長へのインタビューでは、獺祭と共に挑戦してきた桜井会長の信念、そしてこれからへの思いが語られた。

◆ 「お前はクビだ!」から始まった挑戦
さかのぼること40年余。桜井会長が旭酒造に入社したのは1976年。地方の小さな酒蔵、日本酒業界全体が斜陽に向かっていた時代だった。「売上が低迷する中で、父の “このままでいい” というスタンスに違う意見を持った僕は衝突したんです。そして父に『お前はクビだ!』と追い出されました」
そうして会社を去った桜井は、7年後に父の死を経て社長として戻る。売上は10年間で3分の1にまで落ち込んでいたので、「クビにした父を見返したい」という一心で躍起になった。だが、復帰して見た景色は、想像以上に厳しいものだった。
再起の第一歩は、山口の市場を捨て、東京市場への挑戦。しかし都心では「田舎酒」は通用しなかったので、桜井会長は当時では無謀とも言われた、大量生産の安酒とは異なる、繊細で雑味のない「純米大吟醸」が持つ可能性にかけた。「周りにはそんな酒、売れるわけがないって笑われましたよ。でも、純米大吟醸にかける他に道がなかったんです」
結果は成功だった。獺祭は純米大吟醸を通して一躍日本酒の代名詞になる。だがそこからも杜氏制度の崩壊、米政策の矛盾、保守的な業界体質など、乗り越えるべき壁は次から次へと現れ、成功し続けるのは決して簡単なことではなかったが、「現状を認めようとしない人たちばかりいました。昨日と同じことを繰り返す。それじゃ変われない」と、トライアンドエラーで挑み続けた。
◆ ライバルは「日本の獺祭」
そんな桜井会長が再び勝負に出たのが、アメリカ・ニューヨークでの現地醸造だった。名称は「獺祭BLUE」。当初 “ブルー” という言葉には「ネガティブな意味だ」とアメリカ人スタッフから反発もあったというが、桜井会長はこのネーミングに「青は藍より出でて藍より青し」(意味:師を超える弟子)というテーマを込めており、いつの日か、日本でトップに君臨する「獺祭」を超える日本酒をニューヨークせ作りたいという展望を持っている。
「100歳人生にすると獺祭ブルーは、まだ2、3歳くらいですよ。でも始まったばかりだから面白い。今から何にでもなれます」
◆ 「宇宙で酒を造らないか?」
そんな桜井会長の挑戦は止まることはなく、次なる舞台は「月」での日本酒造り。きっかけは「宇宙で酒を造らないか」という一通の打診だったが、当初は「また話題作りのためか」と疑ったそう。
「でもよく考えてみると、2040年代に人が月に住むなら酒も必要になるだろうと思い、話を受けることにしたんです。『そこにお客さまがいれば、酒を作りたい』これは私の信念の一つでもありますからね」と桜井会長。
その気になるプロジェクトの内容はというと、国際宇宙ステーション内「きぼう」の日本実験棟での酒造りを計画しており、月面の重力(地球の約1/6)環境下での酒米(山田錦)、麹、酵母、水を用いての発酵、そしてもろみ生成に挑戦する。
そして、そこで生成されたもろみは地球に持ち帰り、清酒として精製され「獺祭MOON – 宇宙醸造」と名づけられ、うち100mlが1億円で販売されるが、すでに買い手は決まっている。「最近では海を越えて世界に行くのかという話だけではなくて、 成層圏をを越えて宇宙に行くのか、なんてことも言われたりしてますよ」
◇
「美味しい日本酒を飲んでほしい」その一心でニューヨーク、そして地球を飛び出し日本酒造りに向かう桜井会長。当時、周りから無謀と言われた「純米大吟醸」のように、獺祭ブルー、そして月での日本酒が “メジャーな酒” として親しまれる日もそう遠くはないのかもしれない。
取材・文・写真/ナガタミユ
ちなみに、桜井会長がゲストを迎え「成功のコツ」を語るトークイベント第2弾は、7月24日に開催される。今回の語り手はアメリカを中心に展開する鉄板焼きレストランのチェーン店Benihana創業者の遺志を継ぐ青木恵子さん。イベントの詳細はこちら【日本の経営者がNYで「成功のコツ」を語らう、獺祭のトーク×日本酒イベントが必見】。
RECOMMENDED
-

客室乗務員が教える「本当に快適な座席」とは? プロが選ぶベストシートの理由
-

NYの「1日の生活費」が桁違い、普通に過ごして7万円…ローカル住人が検証
-

ベテラン客室乗務員が教える「機内での迷惑行為」、食事サービス中のヘッドホンにも注意?
-

パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-

日本帰省マストバイ!NY在住者が選んだ「食品土産まとめ」、ご当地&調味料が人気
-

機内配布のブランケットは不衛生かも…キレイなものとの「見分け方」は? 客室乗務員はマイ毛布持参をおすすめ
-

白づくめの4000人がNYに集結、世界を席巻する「謎のピクニック」を知ってる?
-

長距離フライト、いつトイレに行くのがベスト? 客室乗務員がすすめる最適なタイミング
-

機内Wi-Fiが最も速い航空会社はどこ? 1位は「ハワイアン航空」、JALとANAは?
-

「安い日本」はもう終わり? 外国人観光客に迫る値上げラッシュ、テーマパークや富士山まで








