2019年に遡る。セレブを総なめに友人にした大富豪が、少女らの人身販売の罪で投獄されたが、公判を前に首を吊って自殺した。人身販売の実態や、果たして有名人が少女買春をしていたのか?などが、全て「迷宮入り」となった。この故ジェフリー・エプスタイン元被告の大スキャンダルが、トランプ米政権を揺さぶっている。なぜか?

(1月20日、ワシントンの大統領就任式会場近く Photo:Keiko Tsuyama )
争点は「エプスタイン・ファイル」。これは①08年に彼が14歳の少女に性的暴行を加えて有罪になった事件②19年の未成年の人身販売で有罪になった事件③自殺をめぐる捜査—の3つが柱となった膨大な捜査資料だ。この中に「顧客リスト」と呼ばれる交友録も含まれ、ビル・ゲイツ氏や元大統領らも含まれるという。ファイルは、未成年の犠牲者の人権に配慮するという理由で「非公開」となっていた。
しかし、トランプ氏は24年大統領選挙の際、公開に前向きな姿勢を示していた。なぜなら、彼が拡散した陰謀論を信じるトランプ支持者らがそれを望んでいるのを知っていたからだ。
陰謀論でトランプ氏が戦う「ディープ・ステート(闇の政府)」は、エプスタインのようなエリートらが暗躍する。トランプ支持者らが最も許せないのは、エリートらが少女買春や未成年との性愛を楽しみ、子どもらしい生活を踏みにじっているという部分だ。報道で「何百人」という少女と女性を犯罪ルートに巻き込んだエプスタインの資料なら、顧客リストに憎きビル・クリントン元大統領や民主党幹部がいただろう、という期待感が、コアの陰謀論信者の間で高まっていた。
ところが、司法省が7月7日、ファイルの公開はしないと発表、トランプ支持者の怒りが爆発した。同時にメディアが、トランプ氏がエプスタインと1990年代〜2000年代に親しくしていた、などと報道した。SNSでは、2人がパーティで若い女性を抱き寄せたり、触ったりする映像が拡散した。
17日にはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が爆弾を落とした。03年にトランプ氏がエプスタインに送った手紙に、太いマーカーで手書きされたように見える裸婦のイラストがあり、乳房を表すとみられる二つの弧もある。ウエストの下に「Donald」と太いマーカーで書かれたトランプ氏の署名が陰毛のように見える。太いマーカーは、トランプ氏が大統領となった今も、署名や書類への書き込みに常に使う。「毎日が新たな素晴らしい秘密でありますように」というのが手紙の締めくくりだ。
トランプ支持者の怒りは止まらない。故ジャニー喜多川氏の数十年、1000人以上に対する男子への性的搾取を社会全体が見て見ぬふりをした日本では分からないだろう。アメリカでは、児童・未成年性愛が最も忌み嫌われる犯罪だ。未成年への性的搾取で投獄された被告らは、即日服役囚から暴行を加えられ入院する。ほとんどが重体に陥る。トランプ氏は果たしてその仲間だったのか。報道合戦は続くだろう。トランプ氏には「猛暑の夏」だ。
(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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