私たち日本人は、どこら来てどこへ行くのか? 歳のせいか、そういうことを考えることが多くなり、最近は、古代史に関心がいっている。いまの世界情勢が、戦乱、移民排斥、分断の渦中にあり、民族や国家のアイデンティが問われていることも大きく影響している。
私たちはいった何者なのか? それをはっきりと知りたいのである。
最新のDNA解析などにより、新しい説も登場し、学生の頃に習った歴史は塗り替えられつつある。しかし、それでもまだわからないことが多いが、いちおう、一つのストーリーを描いてみた。
日本の古代史は連続した物語になっていない
邪馬台国はどこにあったのか? 畿内なのか? 北九州なのか? そしてなぜ、その存在が中国の書誌『魏志倭人伝』にあるだけで、日本の最古の歴史書『日本書紀』には1行も書かれていないのか?
私たちは大陸からやって来た渡来人の子孫なのか? それとも、縄文人、弥生人の混血による日本人の子孫なのか?
このような古代史の謎は、いずれ明らかになる。私が死ぬまでにはわかるだろうと思ってきたが、最新の研究を見てもまだはっきりしない。DNA解析が進んで、どうやらいまの私たち日本人が、どのように形成されたかはわかってきた。
しかし、いまだに日本の古代史が、一つの連続したストーリーとして頭の中に描けない。ただ、それでもなんとかストーリーにしようと、以下、最新情報に想像力を加味して組み立ててみた。
やはり奈良盆地が「ふるさと」。慶州とそっくり
これまで私は、全国各地で、気の赴くまま古代の遺跡、古墳を見てきた。そして思うのは、やはり、奈良盆地が、私たちの「ふるさと」ではないのかということ。大和古墳群、纏向古墳群、馬見古墳群などを見ながら、「山の辺の道」を歩くと、ここで暮らした祖先の姿が想像できる。
もう一つ、宮崎県のほぼ中央、西都市にある西都原古墳群でも、同じような思いにかられた。平坦な丘の上に多くの古墳があり、最大のものは「男狭穂塚」「女狭穂塚」の前方後円墳。この地は、高天原から天下った天孫ニニギノミコトが、コノハナノサクヤヒメと出会って結婚した地とされる。
さらにもう一つ、韓国の慶州(かつての新羅の都)に行ったときのことが忘れられない。私は友人たちと一緒に古墳巡りをしたが、その際、日本からきた母親と女子大生の2人組とたまたま一緒になった。
そのとき、女子大生がこう言った。
「なんだ、お母さん、うちと同じやわ」
その言葉を聞いて、「どこからいらしたのですか?」と聞くと、「はい、奈良からです。ここは、奈良にそっくりです」と母親。たしかにそのとおりだと思った。
古墳時代の渡来人が加わった「3重構造モデル」
ではまず、「日本人のルーツ」を「AI」(Search Labs)に聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
《日本人のルーツは、縄文人と大陸からの渡来人(弥生人)の混血によって形成されたという「2重構造モデル」が有力です。最新の研究では、縄文人、東アジア系、北東アジア系の3つの系統が混血した「3重構造モデル」を支持する結果も出ています。また、アイヌ民族と琉球民族は遺伝的に近縁であり、本土人はその中間に位置することもわかっています。》
ついこの前まで、私たち日本人は古くから日本列島に定住した縄文人と、弥生時代に日本にやってきた弥生人の混血であると思ってきた。そう学校で習ったからである。
しかし、この「2重構造モデル」より、最新の研究によって明らかになった「3重構造モデル」が有力視されるようになった。
それは、縄文時代にやって来て定住した東南アジア人(縄文人)、弥生時代にやって来た北東アジア人(弥生人)が混血した後、さらに古墳時代(250~550年ごろ)から日本やって来た極東アジア人(古墳人、渡来人:新モンゴロイド)が混血して、現在の日本人の主流になったという説で、「3段階渡来説」とも呼ばれている。
これまでの日本史でいうところの「渡来人」は、4世紀から7世紀にかけて中国や朝鮮半島から日本に移住してきた人々を指していた。有名なのは、「弓月君」(ゆづきのきみ)と秦氏 (はたうじ)だが、それ以前から渡来人が数多くやってきて混血したことになる。
DNA解析により進化人類学は新段階に
こうした研究は、進化人類学や分子人類学が進み、DNAが解析されるようになってわかったことだ。
1981年に、人間のミトコンドリアDNAの全配列が解読された。その後、DNAを増幅する技術「PCR法」が開発されるなどして2001年には人間1人分のDNAの全塩基配列が明らかになった。そして、いまでは、「次世代シーケンサー」と呼ばれる装置により、DNAの解析を短時間で大量にできるようになった。
その結果、古代人の人骨のDNA解析が進み、2021年、金沢大学を中心とした国際共同研究グループが、「縄文人」「弥生人」「古墳人」は異なるゲノムであり「3重構造」であると提唱したのだ。
それまでは、古墳時代に、日本人のルーツを書き換えるような多数の北東アジア、極東アジアがルーツの移住者が朝鮮半島の北部、中部から来るわけがないと考えられてきた。しかし、DNA解析の結果は、そうではなかった。「古墳人」は「縄文人」「弥生人」に並ぶ日本人の祖先集団であり、現代日本人のDNAの主流を占めているというのだ。(つづく)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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