ニューヨーク市のエリック・アダムズ市長が28日、11月4日に実施される市長選挙からの撤退を表明した。ニューヨークタイムズは29日、市長当選から支持基盤を失い敗北するまでの経緯をまとめた。

市長当選まで
2021年の夏、新型コロナウイルスのパンデミックに疲れ果て、犯罪増加への懸念を強めていた黒人層や労働者階級のニューヨーク民主党員は、ニューヨーク市警察(NYPD)で22年間勤務し、ブルックリン区長を8年間務め、治安対策を市長選予備選挙の公約の中心に据えたエリック・アダムス氏を支持した。叩き上げから這い上がった経歴や、犯罪と警察の暴力と戦うとの公約に共感する者もいた。就任後の世論調査では市民の約3分の2が市長としての任期を楽観的に見ていることが判明。楽観論は市内5区、全ての人種グループと年齢層の間で強く、共和党支持者のほぼ半数も含まれていた。特に高齢層と黒人有権者からの支持が高かった。
汚職疑惑とトランプ氏への接近
任期開始から2年も経たぬうちにアダムズ氏は移民危機への対応に対する反発と、選挙資金調達を巡る連邦捜査に直面。23年12月までに支持率はわずか28%と悲惨な水準まで急落した(ただし、黒人有権者の間で支持率は比較的高い水準を維持し、約半数が職務遂行を支持していた)。翌年9月、連邦大陪審はアダムズ氏を共謀罪、電信詐欺罪、収賄罪、外国人からの選挙資金勧誘を含む5件の刑事罪で起訴。検察側は、2016年以降、アダムズ氏がニューヨーク市消防局(FDNY)の決定に影響を与える見返りとして、トルコ関係団体から10万ドル超える割引や無料旅行の特典を受け取ったと主張。起訴状はまた、アダムズが偽の寄付者を利用して、市のマッチングファンドプログラムでも詐欺を行なったと非難している。アダムズ氏はニューヨーク市長在任中に連邦犯罪で起訴された初の市長となり、特に不起訴を求めてトランプ氏に接近したことで支持率はさらに低下した。
大多数の市民から信頼失う
起訴後に実施された世論調査で「不正行為はなかった」と考えるニューヨーク市民はわずか7%。かつての支持基盤である黒人有権者、高齢有権者、大学卒業者以外の有権者の大半は、彼が違法行為を行ったと考えており、犯罪は犯していないと考える人々も、圧倒的に「倫理に反する行為を行った」と答えていた。
無所属から出馬
支持率低迷が著しく、民主党からの支持が得られないと判断したアダムズ氏は4月、無所属として再選を目指す意向を表明。発表は、トランプ政権が介入し、アダムズ氏に対する5件の連邦汚職起訴が棄却された翌日に行われた。
撤退表明
アダムズ氏は当初、黒人有権者と労働者階級の強い支持を得ていたが、選挙戦撤退時点で、再選に向けた支持率は10%を下回っていた。アダムズ氏が28日に再選運動を断念した時点で、かつて「歴史的な多様性を備えた5区連合」を誇示した男は、全区・全層で惨敗を喫していた。イーストニューヨーク(ブルックリン)からイーストトレモント(ブロンクス)まで築いた多民族連合は瓦解した。
今後の選挙戦に与える影響
コロンビア大学の政治戦略家バジル・スミクル氏は、28日放送されたWNYC(ニューヨーク市公共ラジオ放送)の番組「All Things Considered」で、「アダムズ市長は撤退したが、マムダニ氏が大きくリードする選挙戦の構図を劇的に変えることはない」との見方を示した。スミクル氏は、アダムズ氏の支持率低迷は、彼の支持者の大半が既に他の候補者に流れていることを意味すると分析。アダムズ氏の撤退により、民主党のマムダニ氏、共和党のスリワ氏、無所属のクオモ氏に候補者が絞られたが、アダムズ氏を支持する有権者全員が投票に行き、マムダニ候補以外の別の候補者に投票したとしても、世論調査に基づけば、その差を埋めることは依然として不可能だろう」と述べた。「ただし、可能性は低いものの、選挙日の5週間前に選挙戦の構図が変わることもある」と付け加えた。
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