2025年10月21日 NEWS DAILY CONTENTS

AIが乳がんリスクを予測、「発症前に守る医療」が年内にも実現へ

10月は「乳がん啓蒙月間」。さまざまな分野でAIの活用が進む今、ヘルスケア関連テック企業も、がん発症リスクのある患者や、より頻繁な検診・予防医療が必要な患者を特定するモデルを開発中だ。9月23日付のウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた。

写真はイメージ(photo: Unsplash / Angiola Harry)

これまで乳がん検査は、異常が見つかった時点での診断が中心だったが、近年では「数年以内に発症する可能性」を予測するAIモデルが登場している。ハーバード大学の放射線科教授であり、マンモグラフィーベースの深層学習プラットフォーム、クラリティ(Clairity)創業者のコニー・レーマン博士は、「人間の目では、乳房の画像から5年先の発症リスクを正確に判断することはできない」と話す。 

AIが将来のがん発生パターンを発見

クラリティのAIは40万件以上のマンモグラム(乳房X線画像)を学習し、各患者がその後5年間にがんを発症したかどうかを照合して開発。その結果、AIは乳房組織の中に将来のがん発生を示す微細なパターンを発見した。さらに、画像1枚から年齢や閉経状況、出産経験まで推定できることも確認されたという。「体の歴史が乳房組織の画像に刻まれているのです」とレーマン博士。同AIは今年5月に米食品医薬品局(FDA)から認可を受け、年内にも臨床導入される見込みだ。

従来のリスク判定は、年齢や家族歴、乳腺の密度などを基に計算する手法が主流だった。しかし、こうした従来型の計算式では、実際にがんを発症する女性を約60%しか正確に識別できないのに対し、AIでは70%以上の精度を示すケースもあり、大幅な改善が期待されている。

ワシントン大学医学部のグラハム・コルディッツ医師のチームも独自のAIを臨床試験で検証中で、リスクに応じて検診頻度を変える仕組みを試している。リスクが高い女性にはMRIや予防薬(タモキシフェンなど)を推奨し、低リスクの人は過剰検査を避ける。AIによって検診がより個別化されることで、早期発見や医療費削減に貢献できる可能性がある。今年初め、ソウルを拠点とする医療AI企業ルニット(Lunit)は、ワシントン大学のAIリスク予測ツールを買収した。

一方で、専門家の中には慎重な見方もある。米放射線学会のスタマティア・デストウニス医師は「まだ早期段階で、死亡率などの長期的な影響データが不足している」と指摘。一部のツールは、害を及ぼすことのない「低リスクの乳房病変を発症する可能性のある女性を過剰に指摘するかもしれない」との懸念もある。

肺がんリスクをCT画像から予測

マサチューセッツ工科大学(MIT)とマサチューセッツ総合病院の研究チームは、肺がんリスクをCT画像から予測するAI、シビル(Sybil)を開発。イリノイ州の主に黒人患者集団において高い精度を示した。同モデルは韓国と台湾の患者データでも成功例が報告されており、医療AIの国際展開が加速している。

AIがもたらす未来は、単なるがん予測にとどまらない。放射線AI企業のディープヘルス(DeepHealth)は、乳房画像の石灰化情報から心疾患リスクまで推定できる可能性を研究中だ。がん検査が、全身の健康状態を評価する“多機能検査”へと進化する日も近いかもしれない。

                       
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