ファーストリテイリングの創業者で会長兼社長の柳井正氏(76)にとって、アメリカは楽観と悲観が入り混じる複雑な存在だ。傘下のユニクロの製品は若者の心をガッチリつかんでアメリカ市場を席巻。グループの成長戦略の一つとなっている。しかし、柳井氏本人はアメリカの政治や経済には懸念があると語る。ニューヨークタイムズがミートパッキングディストリクトで柳井氏にインタビュー、10月14日掲載した。

「アメリカで成功したい」と切り出した柳井氏。1949年生まれで、50年代のアメリカのテレビ番組「パパは何でも知っている」を見て育ち、アイビールックのヴァンヂャケットを愛用した。
「アメリカには思い入れがあるんです」。ニュージャージー州に第1号店をオープンしたのが2005年。北米事業が黒字化したのは22年になってからだ。その後、同市場が拡大したことで、ファーストリテイリングは10月9日、過去最高の年間純利益28億ドルを報告した。ユニクロは27年までに北米で200店舗を展開する計画で、現在の106店舗からほぼ倍増させる方針だ。
しかし、成長を支える工場は中国や東南アジアにある。二桁台に上る関税は脅威だ。柳井氏は問う。「アメリカが思うままに、この国は何パーセント、あの国は何パーセントというように決めてもいいものなのか」。そうした動きは「世界の貿易を分断し、間違いなく世界の発展にとってマイナスになる」
「日本人は意見を率直に表明しないことが多いが、私には異論がある」と柳井氏。「アメリカは自由と民主主義の国であり、友好的な国であるはず。私はアメリカが健全な姿に戻るのを見たいんです」
関税は製品値上げにつながる。来年早々にはその影響で消費にかげりが出ると予想する専門家もいる。柳井氏も「経済が不安定になりつつある。それをわれわれもはっきり感得しています」
工場をアメリカに移転するつもりはない。労働者不足と経済環境を理由に挙げる。「何もないところから何かを作り始めることになる。アメリカの現状は、そうした産業を育成する環境にない」
ユニクロについては「私たちの服でアメリカに活気を取り戻したい」と語る柳井氏。その一方で「同盟国は同盟国として扱うべきだ」と付け加えた。「アメリカが全てを単独で成し遂げることはできないのだから」
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