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今年、住まいを再び見直すことになりました。これまでアメリカ国内5州で暮らし、8回以上の引っ越しを経験してきました。売買と賃貸の両方を経験する中で感じているのは、住まいのトラブルは契約時よりも、むしろ住み始めてから起きやすいということです。
アメリカでは多くの日本人駐在員が賃貸住宅で生活しています。この地域には日系不動産エージェントも多く、契約段階で大きな問題が生じることは比較的少ないのが実情です。しかし注意が必要なのはその後です。入居後の修理対応や退去時の保証金を巡るトラブルは、決して珍しくありません。
今回は、その備えについて整理します。

◆ 管理会社物件と個人オーナー物件の違い
庭付きの一戸建てやタウンハウスでの生活に憧れ、シングルホームを選ぶ駐在員も少なくありません。アパートよりも広く、子育て環境として魅力を感じる人も多いでしょう。ただし、責任の帰属が異なります。アパートは管理会社が運営するケースが多くおおむね修理体制が整っていますが、シングルホームは個人オーナー所有の場合が多く、修理対応がオーナーの判断に委ねられることがあります。その結果、対応の速度や質に差が出ることがあるのです。
◆ 入居後に起きやすい問題
実際によく耳にするのは、次のようなケースです。
・設備などの故障時の対応の遅れ
・設備交換が不十分
・自己判断で修理した場合、「無断改変」とされ、退去時に請求されることもある
◆ 実際にあったケース
例えば、次のような事例がありました。
• オーブンの故障を連絡しても数カ月放置され、ようやく交換されたのは内部が汚れた中古品のようなものでした。強く抗議することなく、そのまま使い続けた。
• 屋根の沈みを報告しても返答がないため自費で修理したところ、退去時に「無断改変」とされセキュリティーデポジット(保証金)が差し引かれた。
• 浴槽の水漏れを連絡したにもかかわらず修理されず、帰国後に「通知が不十分だった」として費用負担を求められた。
いずれも問題を大きくしなかった代わりに、結果として不利益を負ったのはテナント側でした。
◆ なぜ改善が進まないのか
賃貸契約では、エージェントの役割は原則として「契約成立まで」とされます。多くの日系エージェントは入居後も相談に応じてくれますが、契約上の責任は最終的に家主とテナントの間にあります。そのため、入居後の修理や是正は当事者同士の問題となります。
◆ 物件価値と家賃のバランス
通常は、新しいテナントを迎える前に家主が点検や修繕を行います。ただし、前の入居者から大きな是正要求が出ていない場合、不具合が「緊急ではない」と判断され、そのまま次の契約へと進むこともあります。一方で、家賃は市場価格に合わせて見直されます。しかし、その上昇が設備の改善と必ずしも見合っているとは限りません。
駐在員の場合、滞在期間が限られているため大きな修繕などをせずに(言い換えれば、不具合があるまま目をつぶって)生活を続けるケースも少なくありません。新しく着任した人が前任者の家に住むといったこともあり、不具合がきちんと是正されないまま引き継がれていくことになります。
◆ 家主の法的義務
家主には安全で健康的な住環境を維持する義務があります。
・暖房
ニューヨークおよびニュージャージー州では家主に対し、共有スペースを含む建物内を適切な温度に維持することを義務付けています。ニューヨーク市では10月1日〜5月31日が「暖房シーズン」と定められ、午前6時〜午後10時は室温を華氏68°度(摂氏約20度)以上、午後10時〜午前6時は外気温にかかわらず、華氏62度(摂氏約16.7度)に保たなければなりません。ニュージャージー州でも適切な温度の提供が義務付けられていますが、具体的な温度基準は自治体ごとに異なる場合があります。・給湯
ニューヨークおよびニュージャージー州では、年間を通じて適切な温度の給湯を維持する義務があります。とりわけニューヨーク市では、24時間体制で最低華氏120度(摂氏約49度)の給湯が求められています。・漏水
屋根や配管からの漏水や水害は修理義務の対象となります。放置によりカビや構造損傷が発生した場合も家主責任となる可能性があります。・カビ
健康被害につながるカビも是正義務の対象です。原因(漏水など)の修理と除去の両方が求められます。・害虫
ベッドバグ、ネズミ、ゴキブリなど建物由来の害虫は原則、家主の責任です。・電気・ガスの不具合
停電、配線不良、ブレーカー頻発、ガス漏れ等は安全上の問題として最優先での対応義務があります。*これらは「お願い」ではなく、法的に保護された事項です。
◆ 修理依頼の実務
Step 1:必ず書面(メール)で通知する
日付、問題の内容、発生時期、、修理希望期限を明記し、証拠となる写真を添付する。
「修理をお願いします」ではなく、「安全上の問題があるため、◯日以内の対応を求める」と期限を切ることが重要。
Step 2:合理的な期間を待つ
・暖房・水漏れ → 数日、通常設備 → 1〜2週間程度
Step 3:行政に相談する
・NYC → 311 → HPD検査
・ニューヨーク市以外 → 各市町村のBuilding Department または Code Enforcement Office
・ニュージャージー州→各市町村のCode Enforcement または Housing Inspection 部門
*行政記録が残ると、対応は大きく変わります。
4. 自己判断で修理しない
・ニューヨーク州では一定条件下で「repair and deduct」が認められる可能性がありますが、書面通知済み、合理的期間経過、緊急性、費用相当性、など厳格な条件があります。独断で修理すると退去時に「無断改変」とされるリスクがあります。
・ニュージャージー州では、原則として自己判断での差し引きはリスクが高いと考えられています。
保証金トラブルを防ぐ
ニューヨーク市とニュージャージー州の賃貸市場には制度上、テナントを守る仕組みがあります。
・Implied Warranty of Habitability(居住可能性の黙示保証)
・保証金返還期限(ニューヨーク市は原則14日以内、 ニュージャージー州は原則30日以内)
・行政・司法手段(NYC 311, NY市外は各自治体のBuilding/Code Enforcement部門、NJは自治体コードエンフォースメント)
◆ 入居初日にやるべきこと
・全室の写真と動画を撮影する(天井・床・窓枠・家電内部など)。小さな傷もメールで通知し、入居点検書を保存する。
*これだけで、保証金トラブルの多くは防げます。
◆ 退去前の実務
・退去30日前までに書面で通知(契約内容を確認)
・可能であれば事前ウォークスルーを依頼(ニューヨーク州では要求可能)
・立会い時は動画で記録を残す
・鍵は受領記録が残る方法で返却帰国後に揉めると、対応が難しくなり、話がこじれることがあります。

◆ まとめ
契約内容を理解し、書面で通知し、記録を残す。それだけで多くの不利益は防ぐことができます。
遠慮を大切にする姿勢と、権利を正しく行使することは両立できます。知識と手続きは、対立のためではなく、安心して暮らすための備えです。
【今日のひとこと】
「善意は、続けば前例になる」
遠慮や配慮は大切です。しかし契約の世界では、繰り返された善意が「当然」と受け取られることもあります。
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