日本、そして近年はアメリカ・ロサンゼルスを拠点に、コメディアン、時には映画監督、俳優として、Netflixやブロードウェイミュージカルでもパフォーマーとして活躍するゆりやんレトリィバァ。唯一無二の「自分らしい芸」をデビュー当初から貫き、自然とさまざまなフィールドから求められるコメディアンになっていた彼女。

アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活躍するゆりやんレトリィバァ(photo: 吉本興業)

今回は、自身が「アメリカのシーズン2なんです」と話す節目を飾るように、ニューヨークで11月15日に初の単独ライブが行われる。もちろんオール英語での1時間のショー。公演にかける思いから、これまで、そして今後のアメリカ生活やこの地での活動について、夢や苦労話も交えながらざっくばらんに語ってもらった。

「人生で初めて逃げ出したいと思った」

── ちょうど先日、日本でブロードウェイミュージカル「フル・モンティ」を終えられ、アメリカに戻ってこられたんですね。初のミュージカル挑戦、しかも英語で挑戦されたんだとか?

そうなんです。ミュージカルはずっと夢だったんですけど、初めて出演させていただき、しかも全部英語で。山本耕史さんが主演、他のキャストはほぼ全員がアメリカからいらっしゃって、ブロードウェイでずっと活躍されている方々ばっかりという環境でやらせていただきました。

8月と9月に日本で上演されたブロードウェイミュージカル「フル・モンティ」(photo: キョードーメディアス)

最初はワクワクしてたんですけど、自分だけ文化祭レベルというか、いろんな仕事をさせてもらってきた中で、人生で初めて「逃げ出したい」「こんなん絶対私には難しい」って思ってしまいました(笑)。結果的に本当に楽しくて、新境地というか、自分の新しい世界を開いてもらえて楽しかったです。

── 「逃げ出したい」と思った時、何か支えになった出来事とかマインドセットなどはありましたか?

First of all(まずは)、人として、大人として、物理的に逃げ出したら迷惑かけるし信用も失うし、それは絶対ブレーキになりましたね(笑)。でもやるとなったらやるしかないので。今までいろんなつらい、大変なこととかあった時に、結果的にやって良かったって思えたことばかりだったので、これも絶対に何か良いことがあるに違いないって思いました。

「フル・モンティ」の劇中シーン」(photo: キョードーメディアス)

また印象的だったのは、山本さんが相談に乗ってくれた時に、「不安のあまり、夢の中ではしごからぶら下がって、離したらあかんのに、眠たくて眠たくて離しそう」って夢を見てるんですって言ったら、山本さんが「宇宙飛行士さんって、期限を告げられずに宇宙に行ったら、2週間で何が何だかわからんくなるけど、2週間で帰ってきてくださいって言われたら気を確かに持てるらしいよ」って言ってくれて。「だからこれも9月14日で終わるって考えたら、大丈夫じゃない?」と「気を確かに持てよ」ってサポートしてもらったり。結果的には終わってほしくないくらい楽しかったです。

写真中央が、主演の山本耕史(photo: キョードーメディアス)

── ブロードウェイの俳優たちについていくのは、さすがのゆりやんさんでも大変だったのでは?

練習中、みんなもちろん真剣なんですが、慣れてはるから気持ちの余裕があるけど、私はできてないくせにぼーっとしてたら迷惑かけそうって思ったので、人のセリフを覚えようとしてるフリをしてたんです。昔から嫌われないようにしようっていう、臆病精神じゃないですけど、真面目に見られようとするとか、滞りなく進むようにしないといけないとか、なんかそういう変に真面目に見せるフリ、優等生ぶったりはしてみましたね(笑)。

「初めてアメリカに行ったのが11年前」

── そして、ブロードウェイミュージカル「フル・モンティ」に続いて、次はニューヨークでの単独ライブが開催されます。今回のライブ開催のきっかけを教えてもらえますか?

今はロサンゼルスに住んでますけども、もともと地元がNYC・・・奈良県吉野町で。

今回のライブのきっかけは、ロサンゼルスで今年の春に単独ライブを「Netflix Is a Joke」っていうフェスティバルの一環でやらせてもらった時に、「ニューヨーク・コメディ・フェスティバル(NYCF)」をやってはる方が見に来てくださってて、「良かったらニューヨークでもやってみないですか?」というふうに言ってくれて、お願いしますっていうのが始まりで。

ロサンゼルスの有名コメディクラブの一つ「ラフ・ファクトリー」でのライブの様子(photo: 吉本興業)

初めてアメリカに行ったのが11年前だったので、とても感慨深い思いです。当時はナインティナインさんの番組で、3カ月滞在するという企画だったんですけど、1回だけロケでスタンダップコメディをやってみたんです。でも当時はスタンダップコメディが何かわからなくて、めっちゃ滑ったんかな・・・。そこからも個人的には行ったりはしていました。

「Netflix Is A Joke Fest」の一環として行われた単独ライブ(photo: 吉本興業)

── 今回のショーはどんな感じの内容になる予定ですか?

全部英語で、スタンダップコメディがメインとなっていて。日本でやってたみたいな感じのコントまではいかないんですけど、「これ私思いついたんですけど!」みたいなショートネタも混ぜながら、楽しんでもらえたら嬉しいなという感じです。60分のショーです。

── ゆりやんさんはロサンゼルスでは単独ライブをはじめ、さまざまなショーにも出演されていますが、西海岸と東海岸での違いというか、今回東海岸でやるからこそ意識したポイントなどはありますか?

正直、全く違いがわからないんです(笑)。でも日本でも大阪と東京で雰囲気が違うみたいなのがあるから、アメリカの方が広いし、きっと違いはあるんやろうなと思いながら。でも計算してもわからないので、裸一貫でというか、裸にはならないんですけど…。「東やから」とは考えずに立ってみようかなと思っています。アメリカに来てからやらせてもらってきたことを見てもらえたら良いなと。

── 今後、そのスタンダップショーは増やしていきたいなという展望はありますか?

ぜひ増やしていきたいです!!!

「自分が日本人であるということ」

── 先ほどの「裸になる」ではないですけど、アメリカで活躍していくには、特にゆりやんさんのように、すでに日本で築き上げられてきたものがある方は、その「鎧」を一度脱いで、素っ裸になって戦っていくみたいなイメージがあります。

そうですね、確かに。結局来てから2年経とうとしてるんですけど、日本と行ったり来たりしてるので、2年間がっつりやってきたわけではなく、偉そうに言えないんですけど。ロサンゼルスでお笑いをやらせてもらう中で感じたのは、日本でずっとゆりやんとしてやってきたから「そのままでいいや、いけるっしょ」って思ってたんですけど、やっぱりアメリカに来たら、アメリカの方に笑ってもらえるようなスタイルを勉強してやらないといけないって思ったんです。

「自分らしさ」「日本人らしさ」について語るゆりやんレトリィバァ(photo: 吉本興業)

あとは日本にいると、自分が日本人であるということとか、日本で育ってきたアイデンティティってあまり自覚することがないと思うんですね。だからアメリカに来た時にも、私は日本人とかアジア人とか関係なく「ゆりやん」としてやりたいんだって思ってたんですけど、こっちに来ると、「私は何者なのか?」というのをとても自覚したんです。

── 日本を出たからこそわかった、自分を構成する要素といいますか。

「私は日本で生まれた」「私は日本人で、最近アメリカにやって来て、日本でずっと応援してもらってた」と、日本でやってきたことや、やらせてもらったことをしっかり心に刻んでやらないといけないって思ったんです。ゼロからのスタートだけど、やっぱり言葉の壁とか劣等感とかで自信を失いそうになるんです。日本でやってきたことに自信を持って、感謝してやっていくことを忘れてはいけないなと。

言語の壁にも果敢に挑戦していきたいと話すゆりやんレトリィバァ(photo: 吉本興業)

── 「アメリカはいつか挑戦したい」と思われつつも、エンタメ業界で活躍する日本人って案外少ないなと思っていて。でもやっぱりニューヨークやロサンゼルスはエンタメの中心地だし、アメリカで挑戦することを諦めてほしくないなと個人的に思っていて。何かそんな人たちにメッセージがあれば。

やっぱりこちらに来て、まず日本人の前に立ちはだかる壁が言語だと思うんですね。本当につらいと思うし、私もつらいし。もどかしいと思うんです。日本では全然しゃべれるのに、アメリカだと「何もできないやつ」みたいになるので、諦めそうになると思うんですけど、逆にこっちにずっと住んでて、流暢に英語をしゃべれる人にはないアイデンティティが我々にはあると思うんです。そこを強みに、日本は可愛いし、かっこいいし、面白いよね、と思ってもらえるようにしたいなと考えるようにしています。

── ちなみにこの2年間、ゆりやんさんが一番苦労されたことは?

車をレッカーされて、持っていかれたことですかね(笑)。毎回「日産」に電話しないといけなかったんですけど、車を返していただくまでの毎日の電話のやり取りに非常に苦労しました。お笑いとか何よりも、苦労しましたね。毎朝電話して、press 1、press 2とか全く聞こえへんし、何言ってるかわからへんし、早いし、電話やから電波も悪いし。お金のやり取りもしないといけなかったので、1個質問したら30分くらい待って「やっぱり明日電話してください」って言われて、次の日にかけ直したら全然伝わってなかったり、多分1カ月くらい続いたんじゃないですかね(笑)。

「すごすぎて面白い芸人」になりたい

── ゆりやんさんは去年、自身の初監督作品「禍禍女(まがまがおんな)」を手がけられ、国内外の映画祭で賞を受賞されたり、Netflixのドラマ「極悪女王」では、女子プロレス界の伝説・ダンプ松本さんを主演として演じられるなど、活躍の幅が本当に広く、また濃くなってきていますよね。コメディと、他のジャンルでの活動はどのようにご自身の中でバランスを保たれているのですか?

私は最近日本の舞台に立ってないですし、自分がお笑い芸人かどうかも不安になってくるんですね。日本のYouTubeとか見ててもみんなめっちゃ面白いし。この間なんか「あ〜私、お笑い界の老害や」って思っちゃったんです。でも自分のお笑いのスタイルは、もしかしたら「すごすぎたら面白い」っていうジャンルになりたいのかもって。例えばアカデミー賞を取ってたらすごすぎるけど、私が取ったら「何してんねん」ってなって面白いかなって。だから「すごすぎて面白い芸人」になりたいなっていうのが今はあります。

Netflic「極悪女王」では主演を務めた(photo: 公式リリース)

── まさに体現されていっていますね。飛び込んだ世界で、それがどんな世界であれ「ゆりやんレトリィバァ」がそこにはいるという。

なので「コメディをこれだけして・・・」とかは考えていなくて、その時に自分がやりたいことを一生懸命楽しくやってたら、それが遠くから見たらコメディになってると思うので。だから私が真剣に学者になってたら、それはコメディだと思うんです。ボケて学者になってるんではなく、真剣に博士号とかを取ってると、それがボケてると思うんで、そういった域に行けるといいなと思っています。

ゆりやんレトリィバァが監督を務めた映画「「禍禍女(まがまがおんな)」(photo: 公式リリース)

── 今後のアメリカでの活動や展望をお伺いできますか?

私、勝手に今回はシーズン2やと思ってて。シーズン1はこっちに来て、生活の基盤を整えることに必死だったので、今年の10月からのシーズン2はもっと活動的に俳優とかいろんなエンタメの活動を広げていって、アメリカの大きなエージェントとも契約できるように頑張って、アカデミー賞とかももらえたり、こっちでも「ゆりやん」って言ってもらえるようなエンターテイナーになりたいです。

── 最後にこの記事を読んでいる人に、何かメッセージをいただけますか?

今度、ニューヨークにお邪魔させていただくので、ぜひ見に来ていただけると嬉しいです。私が頑張ってアメリカで売れますんで、私が売れるということは皆さんも売れるということなので、一緒に世界で売れましょ!

取材・文/ナガタミユ

単独ライブ概要

日時
11/15(日)17:00 ※ 開演30分前までに受付
場所
The Stand West
(407 W. 15th St, Manhattan)
入場料
一般$43〜、ミート&グリート付きのVIPチケットもあり
※ 21歳以上対象、16〜20歳は保護者同伴で入場可
公式サイト
https://www.tixr.com/groups/thestandwest/events/new-york-comedy-festival-presents-yuriyan-retriever-s-comedy-in-nyc–205978