まだ就任して2カ月余りだというのに、トランプは世界を破壊しつつある。これまでの常識が通じない、近代以前の世界に私たちを引き摺り込もうとしている。
もはや、“自由と民主主義の超大国”アメリカは消え失せた。グリーンランドやパナマを寄こせという領土要求、全世界を相手の関税戦争、ウクライナ戦争停戦にかこつけた利権漁りなど、かつて力が支配した帝国主義の時代の悪夢を見ているようだ。
しかし、トランプはいずれいなくなる。そのとき、はたしてこの世界はどうなるのか? 以前の秩序ある世界に戻れるのだろうか?
今回は、歴史を振り返りながら、このことを考えてみたい。

トランプが権力を失うとき世界はどうなる?
言うまでもなく、トランプの任期は4年後の2029年1月までである。ただ、2026年11月に中間選挙があるので、そのとき、共和党が惨敗すれば、レイムダック化するかもしれない。
ただ、自分をナポレオンになぞらえる自称“ジーニアス”(天才)は、絶対に敗北を認めない。そのため、選挙を中止させたり、選挙結果を無効にしたりするかもしれない。
まさか、そんなことはしないと思うが、ともかく彼が権力を失ったときにどうなるかを考えないと、現在、なにをすべきかわからない状況になっている。
とくに日本は、いま、なにもできずに漂流している。
これは、企業にしても個人にしても同じだ。トランプの言動により、株価は揺れ動き、経済そのものにも大きな影響を与えている。
はたして、トランプ政権が終わればアメリカは元に戻るのだろうか? 世界は以前の秩序を回復するのだろうか? このことが、現在の世界の最大のテーマである。
「G7」でも「G20」でもない「G0」の世界
まず、私自身の見解、予測を述べれば、「元に戻るだろう」である。もちろん、これは願望でもあり、そうなってもらわなければ困る。
ところが、もう戻らない、ゲームは変わってしまったと言う人間がいる。国際政治学者のイアン・ブレマーだ。有名なコンサルティングファームの「ユーラシア・グループ」(Eurasia Group)の代表である。
私の同級生で、長くメルリンチで金融マンとして活躍してきた男(すでに引退)は、毎年1月に発表されるユーラシア・グループの「世界の10大リスク」を読んでは、投資行動の指標にしていた。
「そんなに参考になるのか?」と聞くと、「とりあえず、世界のトップの連中がリスクと指摘している点を知っておかないとね」と言っていた。
イアン・ブレマーと言えば、「G0」(Gゼロ)の提唱者。 アメリカ覇権の下で「G7」が機能しなくなり、「G20」に移ったが、これも機能ない。つまり、世界はアメリカの主導体制が終わり、世界的なリーダーシップが欠如する「Gゼロ」になると、10年以上前から言ってきた。
この文脈でいくと、トランプは「Gゼロ」の“徒花”“申し子”ということになる。
「ジャングルの掟(弱肉強食)」が世界を支配する
ユーラシア・グループが発表した今年の「世界の10大リスク2025」(Top Risk 2025)は、第1位が「深まるGゼロ世界の混迷」、第2位が「トランプの支配」である。つまり、トランプを最大のリスクとし、「1930年代や冷戦初期に匹敵する世界史上でも独特の危険な時代に突入しつつある」と警鐘を鳴らしている。
トランプ政権の誕生で、世界は「Gゼロ」に突入してしまった。これまでのような、アメリカやEU、中国などの大国と国連、国際機関が互いに牽制し合いながらバランスを保った国際社会は消滅してしまった。よって、今後は、「ジャングルの掟」、すなわち「弱肉強食の掟」が世界を支配するというのである。
たしかにいま起きていることを見れば、ブレマーの話は納得できる。ただ彼は最近、このジャングルの掟の世界はもう元には戻らない。世界は「Gゼロ」で、今後、ますます混迷していくと言っているが、それは疑問だ。
この続きは5月1日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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