2025年5月1日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

トランプが破壊するこの世界は、元に戻れるのだろうか? それとも?(下)

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*写真 © Official White House Photo

レイ・ダリオが指摘する「老いた覇権国」

 イアン・ブレマーと同じような指摘をしているのが、ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」のCIOのレイ・ダリオだ。すでに、このメルマガでも紹介したが、レイ・ダリオは、著書『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』(The Changing World Order)で、世界の覇権国の歴史から、その衰退パターンを導き出し、いまのアメリカがその衰退パターンにあると説いている。
 覇権国家は、繁栄の絶頂期に世界中から資金を集め、強大な軍事力を構築して世界を支配する。そうしながら、国民に豊かな暮らしを提供するため、世界中からモノを買い集める。その結果、巨額の債務が積み上がる。そうして、ついには衰退していくというのが、レイ・ダリオの見方だ。
 つまり、いまのアメリカはこの過程を経て、「老いた覇権国」になっているというのである。
 この見立ては、目新しいものではない。地政学を学べば、世界の覇権交代の歴史から、こんなことは容易にわかる。問題は、アメリカが本当に覇権を後退させ、「「老いた覇権国」になっているかどうかである。

トランプはいまのアメリカをどう認識しているのか?

 トランプは、もともと政治家ではない。したがって、アメリカの政治家なら誰ものが身につけている地政学、政治学の知識はない。そればかりか、彼の人生をたどってみると、一時期でも真剣に教養を身につけようとした形跡がない。
 アイビーの名門Uペンを卒業したといっても、入学は替え玉試験と寄付金による“裏口入学”である。
 そんな男が、いまのアメリカが世界覇権を失いつつあり、世界が「Gゼロ」になっていると認識できるだろうか?ただ、いまのアメリカが、彼が信じる「強いアメリカ」「世界一の国」ではないとは思っているだろう。
 だから、トランプは、バカの一つ覚えのように「America First」(アメリカ第一)を提唱し、「MAGA:Make America Great Again」(アメリカを再び偉大に)と繰り替えし言い続けてきた。
 そして、今回の大統領にカムバックすると、「カナダ併合」「グリーンランド割譲」「パナマ運河返還」を本気で口にし、それを要求するようになった。
 「関税戦争」も同じ文脈。ウクライナに無理やり停戦させて資源を強奪しようとしているのも同じ。トランプの強いアメリカとは、世界を相手に儲けられるアメリカだ。

トランプの政策はすべて思いつきのパクリ

 私は、トランプの「MAGA」は、単なるレーガン大統領の受け売り、パクリだと思っている。アメリカの覇権衰退を認識したうえでのものではないと思っている。
 トランプが2016年の大統領選挙でこれを使うまで、「MAGA」はレーガン大統領の選挙スローガンとされてきた。それをトランプが復活させ、自分のものにしてしまった。
 トランプは、ラストベルトの底辺白人層に、これが受けるとして使ったに過ぎない。アメリカが覇権を失いつつあるという深い認識があって、それを回復させようと願ったとは思えない。彼は、ともかく大統領選に勝つことだけしか眼中になかった。
 トランプは、物事を深く考える男ではない。だから、看板の関税政策にしても、高関税政策で知られる元祖「タリフマン」第25代米大統領ウィリアム・マッキンリーをなぞっただけだ。
 19世紀後半のマッキンリーの時代に、アメリカが強くなったのは歴史的事実である。米西戦争でキューバ、フィリピンを獲得し、ハワイを併合して、欧州列強と並ぶ帝国主義国家になった。ならば、自分もやってやると、「カナダ併合」「グリーンランド割譲」「パナマ運河返還」を言い出すのだから、単純バカとしか言いようがない。

国、領土は不動産と同じように売買できる

 ところで、私が世界情報分析に関して、最も信頼しているのが河東哲夫氏である。元外交官だけあって、その指摘は的確である。その河東氏が、最新の『ニューズウーク』に書いたコラム「領土は売買できるもの――「トランプ新世」の価値観に対応せよ」は、その洞察力に感心した。
 河東氏は、トランプの外交を「不動産屋外交」とし、トランプが国を不動産と同じく、住民ごと売買できると考えていると述べている。そうして、その“単純アタマ”で、あらゆることにアプローチしていると言うのだ。
《国際法とかプロトコルとか上品ぶった外交関係にも無知。デンマーク領のグリーンランドでも、イスラエルのパレスチナ自治区ガザでも、ウクライナの原発や鉱山でも、これまで50年余り手がけてきた不動産やデベロッパーのノリで、自分が引き受けて安全を確保し、立派に開発してみせると胸を張る。 このトランプを世界の人々は品がないとか、住民の権利を無視していると批判する。
 しかし歴史をひもとけば、領土の売買・譲渡は頻繁に起きている》
 トランプのアタマは、旧世界の価値観そのものだが、それは一概におかしくはないと言うのだ。

この続きは5月2日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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