第一回:米焼酎「無言」とスペインの「バルデオン」
今回から3年目に入りました焼酎ソムリエ大竹彩子によるこちらのコラム。今年度はチーズと焼酎とのペアリングをテーマに、ニューヨークで飲める焼酎の中から毎回一銘柄をピックアップし、それに合うチーズを紹介していきます。
月曜の夜からチーズをつまみに焼酎を一献いかがでしょうか?
トップバッターを飾る焼酎は熊本県は人吉市出身の「無言」。こちらの特徴は何と言ってもホワイトオークと呼ばれる樫樽に10年以上貯蔵されてから出荷されること。原酒のため、40度とアルコール度数は高めですが、樫樽から移る爽やかなバニラの香りに誘われ、熟成酒独自のまろやかなトロミと相まって自然と喉を通っていきます。まさにその瞬間、その余韻の素晴らしさに無言になってしまうことから「無言」と名付けられました。こちらを造る繊月酒造は創業明治36年、100年以上もの間、伝統の球磨焼酎(熊本県人吉・球磨地方でのみ造られる米焼酎のことで、世界貿易機関(WTO)から産地呼称を認められている焼酎のブランドの1つ。米を100%原料とすることを始めとし、厳しい製造条件を満たしていなければならない)を造り続けています。原料の米はもちろんのこと、使用する水も同地域に流れる全国水質調査10年連続日本1位を誇る川辺川の伏流水を引き、焼酎造りへのこだわりは一際目を引くものがあります。

そんな「無言」に合うチーズがスペインのブルーチーズ「バルデオン」です。生産地であるレオンはアストゥリアス地方、ピコス・デ・エウロパ山脈に囲まれた深い谷で、このバルデオンという名は「レオンの谷」という意味を持ちます。原料は主に牛乳ですが、そこに少量のヤギ乳を加えることによってほど良い酸味とコクが増し、しっとりと仕上がっています。他のブルーチーズに比べ、よりクリーミーでスペインのブルーチーズを代表する「カブラレス」ほど香りはキツくなく、その甘味とコクが無言の持つバニラの香りと原酒らしいそのコクに完全にマリアージュし、互いの風味をより引き立たせ、まろやかさが増し口の中いっぱいに溶け広がっていくような感覚です。その後に鼻を抜ける香りまでもがまさに芳醇でリッチ、味と香りの両方を最後まで楽しめます。ブルーチーズが苦手な方もぜひ一度試してみてください。また、バルデオンに蜂蜜を少しのせてから無言と一緒に食べてもさらに濃厚な味わいとなり、のせる前との変化が楽しめます。

一口メモ
「無言」の製造蔵、繊月酒造の目の前には人吉城跡が広がり、その裏には同蔵が持つ源泉かけ流しの堤温泉があります。入浴料200円とお手頃ですので、人吉城跡や蔵見学の後にゆっくりと温泉に浸かってみてはいかがでしょう。なお、蔵敷地内にはその堤温泉から引いた足湯があり、蔵見学、焼酎の試飲も何と全て無料ですよー!

大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。
焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com
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