連載⑤ 山田順の「週刊:未来地図」 小池百合子の勘違い〜希望の党の公約「ベーシックインカム」の危うさ(中)

 ベーシックインカムは「極左」の政策

 10月8日、与野党8党首による討論会でも、小池百合子の口からは、経済政策に関するより具体的な話は出なかった。ただし、選挙公約の一つに掲げたベーシックインカムの導入については、突っ込まれた。
 これに対して彼女は、「要はパラダイムを変えていきましょうということです」と答え、さらに、財源について聞かれると、「かなりエッジの効いた提案をさせていただいている」「ベーシックインカムは実験的な部分もある」と言うにとどまったのである。
 要するに、なんら具体性はなく、なにかこれがトレンドだから公約に取り上げてみただけとしか思えなかった。
 ベーシックインカムに関しては、現在、世界的な議論になっている。フィンランドでは、すでに社会実験として取り組んでいる。アメリカでも、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスクなどが提唱し、シリコンバレーの有名なスタートアップインキュベーターである「Y Combinator」が、同社社員を2つのグループに分けて実験を開始している。そう言えば、橋下徹は「維新」をつくった当時、相続税100%を主張し、ベーシックインカムにも大いに興味を示していた。
 しかし、これはリベラルもリベラル、もっと言えば「極左」の政策である。なぜなら、「資本主義」も「民主制」(デモクラシー)も最終的に否定することになるからだ。
 小池百合子は、本来は保守である。そのために政策の踏み絵を踏ませ、民進党の左派、いわゆるリベラルを切り捨てている。それなのに、共産主義の政策としか思えないベーシックインカムの導入を提唱するとは、信じがたきことだ。これなら、なぜ彼らを切り捨てたのか、まったくわからない。

最大の問題は
「誰がそれを割り振るのか」

 単純に言って、AIがやがて人間の仕事を奪っていく未来(=AI失業社会)の解決策の一つとして、ベーシックインカムは提唱されている。ベーシックインカムと言うより、いまはユニバーサルを付けて、いまでは「UBI」と呼ばれている。
 政府が全国民に、基本的な生活を成り立たせるために必要なお金(インカム:基本所得)を、無条件に給付するというのが、UBIの仕組みだ。これを推進派は、貧困対策ではなく、人々を労働から解放し、人間の尊厳を回復するものでもあると主張する。つまり、UBIは生きていくためだけにする労働から人間を解放し、それによって人間は自分や社会にとって本当に意味があることだけをするようになると言うのだ。
 本当だろうか?これだけでも、かつてマルクス主義が唱えた万人が平等に暮らす社会と一緒だが、UBIの最大の問題は「誰がそれを割り振るのか」だろう。当然、それは政府しかできない。つまり、強大な権力を持つ「大きな政府」が誕生してしまう。そして、やがて国民の自由はなくなってしまう可能性が強い。
 また、UBIは道徳にも反する。なぜなら、価値を生み出す人々からそれを取り上げ、なにもしていない(受け取るに値することをしていない)人々に、それを分け与えるからだ。人間の尊厳を回復するというのは絵空事で、人間はただ生きているというだけで、ほかの人々からモノを取り上げる権利は生まれない。   (つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、10月17日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。