連載70 山田順の「週刊:未来地図」ついにマクマスターも「閣僚辞任ドミノ」辞任!(下)

トランプの公約はほぼ実行された

 では、このような解任・辞任ドミノが続くなか、トランプはいったいなにをやってきたのか? それを振り返ってみよう。じつは、トランプは自分の公約を着々と実行してきた。公約と呼ぶのもおこがましい、時代錯誤政策、ゴリゴリの身勝手政策を、単に白人底辺層にうけるとして、本当に実行してきたのだ。

(1)イスラム教徒の一時入国禁止
 まさかと思ったが、トランプは大統領になると即座に大統領令でこれを実行。イスラム教徒が多数をしめる7カ国の国民の入国を90日間禁止した。同時に難民の受け入れも禁止した。これに対して、複数の裁判所から執行差し止めが求められると、変更を加えた入国禁止令を3月に再び発令。さらに、9月に3回目の入国禁止令を出している。
(2)イスラム国(IS)の壊滅
 選挙中からISを壊滅させると宣言していたが、はからずもロシアの介入によりイスラム国は壊滅した。
(3)NAFTA再交渉、TPP、パリ協定から離脱
 まさかのNAFTAの再交渉を開始し、TPPからは本当に離脱した。しかも、パリ協定からも離脱してしまった。
(4)製造業の国内回帰
 トランプは政権発足直後、大手製造業24社のCEOをホワイトハウスに呼び、工場を米国内に呼び戻すように要請した。そのため、キャタピラーやGMなどが、仕方なく米国内に製造工場をつくると発表した。
(5)国境に壁をつくる
 まだ壁は建設されていないが、サンプルはできている。議会で予算化されれば、メキシコ国境に本当に壁が建設される。
(6)貿易不均衡是正で高関税を課す
 とくにメキシコと中国に高関税を課すと選挙中から言ってきたとおり、この3月8日、通商拡大法232条にもとづき、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課すことを決定。ただ、メキシコ、カナダ、オーストラリアは除外された。
(7)オバマケアの撤廃
 昨年12月、税制改革法の中にオバマケア撤廃条項を盛り込んで、事実上廃止することに成功した。
(8)大減税の実施
 紆余曲折の末、昨年末に大型減税法を成立させた。これにより、法人税が35%から21%に下がり、個人の所得税も最高税率が39.6%から37%になった。遺産税も減税された。

 どうだろうか?
 なんと、トランプは、言ってきたことはほとんど実行してきたことになる。つまり、反対者、相性が悪い人間はすべて排除し、「オレさまは言ったことは必ずやる」を実行してきたのだ。

時代錯誤の政策では未来の繁栄は築けない

 ただし、ここで大きな問題がある。
 たしかにトランプの公約実行力はすごい。ともかく、大統領令を連発しまくっている。しかし、そもそもその公約が、アメリカのため、アメリカ国民のため、さらに世界のためになっているかと言うと、そうではない。ここに、トランプをアメリカ大統領としてまったく評価できない点がある。
 トランプの公約、その政策(と呼べるかどうかも怪しいが)は、1970年代ぐらいで時間が止まったままである。つまり、アメリカが世界一の製造業を持ち、もっとも豊かだった時代の懐古趣味としか言いようがない。トランプが「アメリカ・ファースト」と言っているのは、そんなアメリカの繁栄をもう1度取り戻したいということなのだろうが、時代錯誤の政策では、未来の繁栄は築けない。
未来の繁栄のためには、未来志向の政策が必要だ。トランプの政策に、それがあるだろうか?
 彼はやがてシンギュラリティが来るというAIと人類が共存する未来をどう考えているのか? 地球温暖化が嘘ではなかった場合、2040年を境に本当に気温が2度上昇したら、どうするのだろうか? 今後はキャッシュレス社会になり、金融、経済が大きく変わっていくが、そうした流れをどう考えているのだろうか?
 トランプの「アメリカ・ファースト」には、製造業が産業の中心であった時代の政策ばかりで、未来がまったく見えてこない。
 したがって、この時代錯誤の政策が続けば、いくらアメリカが世界一の大国、覇権国家としても、じょじょに衰退していってしまうのは間違いない。そうなると、いちばん困るのは、私たちの日本だ。
 ここで、昨年の大統領就任スピーチを思い出してほしい。この老齢ビジネスマン大統領は、「首都ワシントンに集中した権力」「他国を富ませるために犠牲になったアメリカの産業」「他国を守るために使われた軍事費」などということを連発した。本当に時間が止まっているのだ。アメリカで時間が止まっているうちに、世界の時間はどんどん進んでいる。トランプの任期は、まだ2年以上ある。本当に、どうなってしまうのだろうか? (了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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