連載79 山田順の「週刊:未来地図」「健康食品」で「不健康」になる(下) 「健康志向人間」のほうが早死にするという不思議

クスリと健康食品はどこが違うか?

 このコラーゲンからわかるように、ある特定の食品、健康食品を摂取しただけで、健康になることはありえない。栄養のバランスなどを考えて、健康食品を補助的に摂ることは別として、ある特定の疾患に効く健康食品などない。
 そこで、健康食品とクスリの違いについて考えてみたい。
 まず言えるのは、クスリが病気の人のためのものであり、健康食品は健康な人のためのものであるということだ。つまり、病気でない状態が健康なら、健康食品は本来必要ないことになる。
 クスリには、心理上の効果によるとされる「プラシーボ効果」(placebo effect)という現象が存在する。「暗示効果」と言い換えたら、わかりやすいかもしれない。
 これは、本来は薬効成分のないクスリ(偽薬)を飲んだ場合でも、病気が快方に向かったり治癒したりするという現象だ。クスリではないことを知らずに、クスリでないものを飲んで効果があるのだから、これは心理的なものだとは言える。しかし、そのメカニズムについてはまだ完全に解明されていない。
 とはいえ、こういうことが起こるので、新薬が開発された場合、ある人に効果があっても、別の人にも同じように効果があるとは言い切れないので、必ず偽薬を用いた「二重盲検法」という厳密な臨床試験が行われる。
 ところが、健康食品にはこうした試験はない。前記したように、機能性表示食品の場合は、役所が提出書類を見て販売許可を出すだけである。
 ただし、クスリに「プラシーボ効果」があるなら、健康食品にもあるわけで、「効く」と信じれば、何人かの人には効く可能性がある。信じれば効いてしまうかもしれないのだ。
 しかし、それでもなお、はっきりしていることがある。それは、クスリは特定の「薬効」が必ずあるということだ。健康食品にはこれがない。「効果がある可能性がある」というだけにすぎない。

「健康志向人間」のほうが早死にする

 最近、私が不思議に思うのは、健康ブーム、健康志向が行き過ぎて、消費者が食べ物を「健康にいい」という基準だけで選ぶようになったことだ。空前のオーガニックブームは、まさにその現れだろう。
 しかし、どう考えても、食べ物というのは「好きか嫌いか」「おいしいかまずいか」で選びたい。もちろん、産地表示や成分表示は大事だとは思う。中国産は、なんであれ遠慮したい。
 オーガニックや産地表示、成分表示だけで選んでいると、時間がかかるし、味は二の次になる。もちろん、オーガニックで、安心できる産地で、成分が健康にいいというのが最高だが、やはり好きか嫌いか、おいしいかまずいかが選び方の一番にくるべきだろう。
 じつは、好きなもの、自分にとっておいしいものをバランスよく食べていたほうが健康にはいい。とくに高齢者になったら、そのほうがいいと、私が懇意にしている医者は言う。というのは、健康志向の人がはたして健康であるかどうかに関しては、確実なデータがないからだ。中国のような環境汚染がひどく、食品が確実に汚染されているところを除いて、健康に気を遣ったからといって長生きできるとは限らないのだ。
 たとえば、フィンランドの労働衛生研究所が発表した、健康に関心のない人より気を遣っている人のほうが、健康に関する検査数値が悪かったという調査結果がある。1200人の被験者を600人ずつ半分に分け、片方のグループには糖分や塩分を控えさせ、さらにタバコやアルコールを制限。もう1つのグループは、なんの制限もなく気ままに生活させて、15年後に健康調査を行った結果、後者のほうが、検査数値が軒並みよかったというのだ。本当に不思議だが、こういうことが実際に起こっているのである。
 つまりこれは、特定の食べ物、健康食品などにこだわる「健康志向人間」のほうが、むしろ早死にしてしまうということではないだろうか。
 健康になりたい、長生きしたいと、健康食品に頼ることはやめたほうがいい。毎日、健康で生きたいなら、行き過ぎた健康志向を捨て、もっと気ままに生きることだ。
(了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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