摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載52)乳幼児突然死症候群(上)

今村壽宏 Toshihiro Imamura M. D.
SBH ヘルスシステム 小児科レジデント
2003年、長崎大学医学部卒業、医師。聖路加国際病院で小児科研修後、07年から国立成育医療センターで小児集中治療に従事。11年、カリフォルニア大サンディエゴ校小児科研究員。16年から現職。日本小児科学会認定専門医。

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乳幼児が睡眠中になんの前触れもなく死亡する乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)。10月はその対策強化月間だ。米疾病管理予防センター(CDC)によると、米国では毎年、約3万5000人の乳幼児が睡眠関連の疾病や窒息事故で死亡しており、その代表的な例である乳幼児突然死症候群での死者は、毎年約4000人に上るという。日本の厚生労働省によると、平成28(2016)年度には109人が乳幼児突然死症候群で死亡しており、乳児期の死亡原因としては第3位だった。子どもの病気シリーズ第6回は、ブロンクス区聖バルナバス病院ヘルスシステムの小児科で治療に当たる今村壽宏医師に乳幼児突然死症候群について聞く。

Q 乳幼児突然死症候群とはどんな病気なのでしょうか?
A文字通り、乳幼児(原則的には1歳未満)が直前までの健康状態や過去の病歴からは予想できない状況で突然死亡する症候群です
 具体的な例を挙げると、赤ちゃんが寝たので親御さんが入浴し、少しくつろいだ後に寝室に戻ってみると、眠りにつくまでは普段通りだった赤ちゃんが動かず顔面は蒼白で息もしていない、といったような状況です。生まれたばかりの赤ちゃんがいる家庭に不要な心配をさせたくはないのですが、「予測できない」というのがこの症候群の恐ろしいところです。特に生後2カ月から4カ月の乳児に起きやすいといわれ、発生率は米国の報告では約2000人に1人で日本では約6000人に1人です。日本では少ないように見えますが、これは報告方法などに違いがあるだけで、実際には他の国と大きな差はないと推定されています。

Q SIDSと診断する理由は何ですか?
A 「乳幼児」が「予測できない」状況で「突然死」した場合に、病院での検査や解剖の結果でも原因が全く分からなかったときにSIDSと診断されます
 熱性けいれんの回でも解説しましたが、「病気」という言葉は1つ、またはいくつかの判明した原因から起きる状態を指しますが、「症候群」は、多様なまたは原因不明で起きる「似たような」状態を意味します。原因がはっきりしない現時点ではSIDSは「症候群」です。これまで医師や科学者などが懸命に原因を見つけようとして、心臓、循環器、脳、自律神経などを中心にいろいろと研究されてきましたが、現在に至るまで原因やメカニズムは解明できていません
 似たようなものに、乳幼児突発性危急事態(ALTE:Apparent Life-Threatening Events)やBRUE(Brief Resolved Unexplained Events)があります。しかし、これらは「この子が死んでしまうかも」と思わせるような呼吸や顔色や意識状態になるものの、①自力で立ち直る ②目撃者がいる、という2点がSIDSと決定的に違います。現時点ではこれらが軽度のSIDSなのか、あるいはまた違う状態なのかということについても分かっていません。

Q 危険因子も分かっていないのでしょうか?
A 赤ちゃんを突然、前触れもなく失ってしまうようなことが頻繁に起きているのですから、多くの医師が懸命に原因を探しましたが分かりません。しかし、SIDSが起きてしまった赤ちゃんや家庭状況を詳しく調べて危険因子を見つけようという試みが行われ、その結果、次のような共通点が浮かんできました。①妊娠時を含む喫煙 ②母親のアルコール過剰摂取(主に妊娠時)③母親が20歳未満 ④早期産 ⑤男児 ⑥非母乳育児 ⑦うつぶせ寝、などです。実は他にも細かくあるのですが、これらが一般にいわれている危険因子です

Q 禁煙する、過度の飲酒を控えるなどというのは、妊娠中であろうとなかろうと当たり前のことではないかと思います。SIDS発生の危険性を減らすために気をつけることはありますか?
A 原因が分からないので厳密に言うと予防法ではなく、危険性(リスク)の回避というべきでしょう。一番重要なのが赤ちゃんの安全な寝かせ方です。寝かせ方によってなぜリスクが下がるのかというメカニズムは不明ですが、米国では、うつぶせ寝がSIDSのリスクを上げることが分かり始めた後、1994年から仰向け寝の推奨「Back to sleep campaign」を始めました。すると、SIDSの発生頻度が半分になり現在の2000人に1人の頻度まで減りました(下のグラフを参照)。米国だけでなく、日本を含めた他の国でも同様の現象が起きています。リスクを回避する寝かせ方については次週に解説しましょう。
(つづく)

乳幼児突然死症候群の危険因子は、①妊娠時を含む喫煙 ②母親のアルコール過剰摂取(主に妊娠時)③母親が20歳未満 ④早期産 ⑤男児 ⑥非母乳育児 ⑦うつぶせ寝、などです。