連載164 山田順の「週刊:未来地図」 EV(電気自動車)時代はやって来ない(続) 普及の鍵は「次世代電池開発」と「電力供給」

次世代の電池として期待される「全個体電池」

 このように、まだEV用の電池は発展途上にあり、この先、どのように電池の性能をよくしていくかが、EV開発・普及の決め手になる。そこで、現在、次世代の電池として注目されているのが、「全個体電池」(Solid-state battery )だという。
 「リチウムイオン電池の基本構造は、正極と負極があり、その間にイオンの通り道となる電解質が満たされています。現在、電解質として液体を使っていますが、これを固体材料にしたのが全個体電池です。電解質が個体になると、発電効率が高くなり、1セル当たりの電圧が高くできると期待されているのです。そうなれば、EVの航続距離を長くでき、なおかつ充電時間を短くできます。また液体に起こり得る漏洩事故もなくなり、安全性も高まります。さらに、セルの設計自由度も大きく増します」
 現在、日本では、トヨタ自動車と東京工業大学、積水化学工業、日立造船、旭化成、日立製作所、出光興産、村田製作所、太陽誘電などが研究開発に参入している。先ごろ、英ダイソンも参入表明し、さらにアップルも開発を進めているという。当然だが、中国メーカーも研究に参入している。しかし、まだまだ問題点は多く、「2025年までに完成するかどうかわかない」状況だという。

そもそもリチウムなどのレアメタルが足りない

 というわけで、全個体電池が登場しない限り、EVの普及は進まないとするのが、現在の主流な見方だ。しかし、「EV時代はやって来ない」とする人々は、もっと大きな視点で、この問題を指摘する。彼らが指摘する点を以下、3点に絞って説明してみたい。
 1番目の問題は「レアメタル」である。レアメタルとは、文字通りレアな(希少な)金属類だが、EVの場合、まず問題になるのは電池に使うリチウムである。現在、リチウムの値段が高騰しており、このままではEVの価格に大きく影響するという懸念が出ている。なにしろEV価格の約半分が電池の値段なので、リチウムの価格が上がれば、EVはいくらつくっても売れなくなる。リチウムそのものは地下や鉱山より採掘されるが、現在は海水から抽出する方法も採用されているので、不足することはないというが、製造そのものが需要に追いつかない。テスラはそのため、現在、ネバタ州に巨大リチウムイオン電池生産工場を建設している。
 リチウム以上に心配されるのが、コバルト。リチウムイオン電池の正極材には、コバルト、ニッケル、マンガンの単一、あるいは複合金属が使用されているが、このコバルトが、現在、徹底的に不足して、価格が2年で3倍に高騰している。
 コバルトは年間約9万トンの生産があるが、2025年までに世界で約1800万台のEVが生産さるとなると、コバルトは50万トンも必要になる。そのため、産地のコンゴなどでは中国企業による買い占めが進んでいるが、生産が追いついていない。このような問題の解消には、レアメタルに依存しない電池の開発が必要という。しかし、そもそもいまのところそんな技術は存在しない。
(165につづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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