パフォーミングアーツの世界で、ゲイを公言している指導者は依然として少ない。16日付本紙で紹介したこのニュースに「ゲイであることがそんなに重要?」との意見が寄せられた。15日付ニューヨークタイムズが報じた記事を翻訳しながら、掲載しきれなかったMET新音楽監督の思いを紹介する。
昨年秋にメトロポリタンオペラ(MET)の新音楽監督に就任したヤニック・ネゼ=セガン氏(43)は、音楽家になってから一貫してゲイを公言してきた。パートナーはビオラ奏者のピエール・トゥールビルさん。自身のインスタグラムにビーチでの自撮り写真を載せるほど、私生活をオープンに発信してきた。
ニューヨークタイムズのクラシック音楽担当、ザカリー・ウルフ記者がネゼ=セガン氏に取材したのは、ニューヨーク市屈指の老舗ゲイバー、ジュリアス。同氏がトゥールビルさんとの馴れ初めを語る光景を「並大抵のことではない」と伝えている。
記事によると、ネゼ=セガン氏がトゥールビルさんと出会ったのは25年前、カナダのケベック音楽院モントリオール校の学生だったころだ。「誰もが成人したら親元を離れたいのと同じように、自分を解放しないといけないと思ったんだ」。ネゼ=セガン氏はそう振り返った。当時、4年付き合った彼女がいたが、「君のルームメイトになりたい」とトゥールビルさんに告げたという。トゥールビルさんはすぐに、ネゼ=セガン氏がゲイだと分かったそうだ。

ネゼ=セガン氏(右)が自身のインスタグラム
(@nezetseguin)に投稿した写真=2018年2月14日
同性愛は「ご法度」
権威や伝統を重んじるクラシック音楽界では、特に指揮者が同性愛を公言することは「ご法度」だったという。サンフランシスコ・シンフォニーのマイケル・ティルソン・トーマス氏(74)やボルティモア交響楽団のマリン・オールソップ氏(62)は同性愛を公言したパイオニアともいえる存在だが、指揮者は圧倒的にストレート(異性愛者)が多いとされている。
この風潮は50年前に同性愛者の権利獲得運動「ストーンウォールの反乱」が起きたニューヨークでも同様。 私生活で同性愛関係があったという作曲家の巨匠レナード・バーンスタイン(1918〜90年)も、METの前名誉音楽監督、ジェームズ・レバイン氏(75)も公にしてこなかった。
そのためネゼ=セガン氏のような性的少数者がこうして気軽に、オープンに自身のことを語れるのは、音楽界にも新たな時代がやってきたことの現れだという。
記事ではまた、METの名誉音楽監督だったジェームズ・レバイン氏が若い男性への性的虐待疑惑で解雇されていたことに触れ、ネゼ=セガン氏との対照は無視できないと伝えている。

マイケル・ティルソン・トーマス氏(photo: Jbitman)

マリン・オールソップ氏(photo: Future Symphony Institute)
同性愛を公言して伝えたいこと
記事によると、METゼネラルマネジャーのピーター・ゲルブ氏は「自分に対して違和感を持たないことが、力強く効果的な指揮につながっている」と指摘。自身を受け入れ、誇りを持って生きることが大切だと述べた。
ニューヨーク・フィルハーモニックの最高責任者、デボラ・ボルダ氏も同性愛を公表、パートナーはMETの開発責任者、コラリー・タブス氏だ。ボルダ氏は「オーケストラやオペラ団体も社会の縮図。世の中の変化を映し出す」とコメントしている。
ネゼ=セガン氏はトゥールビルさんとの関係を「おおごと」にしたくなかったというが、この関係を公にすることで、多様な指揮者がいるという概念の象徴になると考えているという。
ネゼ=セガン氏はウルフ記者の取材に「僕たちを知ってもらうことがますます大切になってきている」と話す。「僕たちが先例となって(同性愛指向が)この先問題になるかもしれないと不安がっている若い音楽家たちを勇気付けたいんだ」と語った。
「僕たちが愛し合うこと、生きていることが、固定観念を打ち砕く何かになれば」

昨年11月、予定より2年早く音楽監督に抜てきされたというネゼ=セガン氏。ニューヨークタイムズの記事を自身の写真とともにインスタグラム投稿
[翻訳元記事] The New York Times – “The Met Opera Has a Gay Conductor. Yes, That Matters.”
www.nytimes.com/2019/01/15/arts/music/yannick-nezet-seguin-met-opera-gay.html
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