連載214 山田順の「週刊:未来地図」カネで学歴が買えるアメリカ (中) "裏口入学"はそれほど悪いことなのか?

NYタイムズはどこが問題なのかと皮肉る

 話を戻して、前記したように、アメリカの名門私立大学では「レガシー」と「寄付金」が利く。「レガシー」というのは、日本流に言えば「コネ」であり、「寄付金」とうのはずばり「カネ」である。
 SATやACTのスコアがどうであろうと、親に「レガシー」か「カネ」があれば、子供は優先的に入学させてもらえるのだ。
 そのため、今回の事件は、メディアが大騒ぎしたものの、一般の反応は意外とそっけないものだった。これが日本なら大変な騒ぎになっていただろうが、そこまでにはいたらなかった。
 たとえば、ニューヨーク・タイムズでは、著名コラムニストのフランク・ブルーニが、「イエールやスタンフォードへの入学に賄賂? いったいなにが新しいんだ?」という記事を書いていた。つまり、「レガシー」や「カネ」がモノを言うのはみんな知っており、それは法に反していない。だから、今回のケースが賄賂だったとしても、それと変わらないではないかと言うのである。

トランプもブッシュ元大統領もカネとレガシー

これは、トランプ大統領のケースを見ればよくわかる。先日、議会証言に立ったトランプの元弁護士マイケル・コーエンはトランプが学生時代の成績をひどく気にしていたことまで暴露した。コーエンは、トランプに命じられて出身校宛に「在学中の成績を公表したら訴えるぞ」と脅す手紙を書いていたと証言したのだ。
 トランプは、ご承知のように、いま眞子さまの婚約内定者・小室圭氏が通っているフォーダム大学で2年間学んだ後、Uペン(ペンシルベニア大学)の大学院ウォートンスクールに編入してMBAを取得している。
 しかし、トランプがウォートンでまともにMBAを取得できたなど、誰も信じていない。トランプ家やトランプの半生を描いたノンフィクション本などによると、トランプはUペンに少なくとも150万ドルを寄付しているという。ウォートンスクールにはトランプの長男トランプ・ジュニアも娘のイヴァンカも入学している。
 さらに、イヴァンカの夫、ジャレッド・クシュナーはハーバード卒だが、彼の入学前、父親の不動産王チャールズ・クシュナーは、ハーバードに250万ドルを寄付したという。
 ハーバードと並ぶ名門イエールは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の卒業校でもある。ブッシュ家は、祖父も父親もイエールの卒業生である。つまり、ブッシュ元大統領はイエールに「レガシー」で入学したのは確実で、このことをアメリカ人ならみな知っている。
 ハーバードでは、学生の14%が卒業生を保護者に持つという。ハーバード卒業生の子息がハーバードに合格する割合は40%を超えており、それ以外の出願者の約11%を大きく上回っている。

“裏口”ではなく“通用口”をつくった

 このように、「レガシー」と「寄付金」が入学に際して考慮されることを、アメリカの大学は自ら認め公表している。試験の成績しか考慮されない日本では、“裏口入学”に当たることが、アメリカはそうではないのだ。
では、なぜ、今回、米司法省は仲介者と親たちを起訴したのだろうか?
 それは、仲介料が「賄賂」に当たり、さまざまな裏工作を「詐欺」と認定したからである。
 ところが、“裏口入学”の仲介者シンガーは、今回の手口を“裏口”(back door)とは言わず、“通用口”(side door)と表現した。
 ニューヨーク・タイムズによると、裁判で証言台に立ったシンガーは、「自分の力で通り抜ける“正面口”(front door)と、巨額の寄付をして入学させる“裏口”があるとしたら、自分がつくったのは“通用口”だ」と発言したという。
 彼に言わせると、大学には3つの入り口があるというのだ。つまり、“裏口”では寄付金がモノを言うが、それには巨額のカネがかかるうえ、必ずしも入学が保証されない。
 「そこで、私は入学が保証される“通用口”をつくった。そうしたら、それを多くの家族が使いたがったのだ」
 犯罪者とはいえ、この極めて現実的な論理には、感心するほかない。しかし、“通用口”は違法である。検察当局の担当者は、それを次のように言った。
 「われわれが問題にしているのは寄付金ではない。詐欺行為である」
これは裏を返せば、“裏口”(寄付金による入学)は合法ということだ。
(つづく)

 

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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