連載300 山田順の「週刊:未来地図」 安倍政権はなにをしてきたのだろうか?(第一部・中) 史上最長政権の7年間を振り返る

アベノミクス「3本の矢」は機能したのか?

 では、ここからは、政治がすべき2大事業「経済」(内政)と「外交(安全保障も含める)」で、安倍政権の7年を検証していく。
 まず、安倍政権といえば「アベノミクス」だが、これを立案したのは、もちろん、安倍首相本人ではない。もともと彼は経済には興味はなく、また、経済についてはまったくわかっていなかった。それで、頼ったのが当時、内閣参与だった財務官僚の本田悦朗氏だった。
 民主党政権でもそうだったが、日本経済のテーマは一貫して「デフレ脱却」だった。そのため、いろいろな意見があったが、本田氏の提言はもっとも大胆なものだった。単純に言うと、もっとカネを刷ってバラまけということだ。
 当時、安倍首相自身も、本田氏からアドバイスを受けたと語っている。
 しかし、お金を刷ってバラまけ(金融緩和)だけでは、経済政策とはいえないので、それに成長戦略を付け足して「3本の矢」ができた。そして、日本政府の最大の問題とされる「財政赤字」(借金漬けの運営)に関しては、「経済成長なくして財政再建なし」と言い続けてきた。
 アベノミクスの「3本の矢」とは、次の3本だった。

1、大胆な経済政策
2、機動的な財政政策
3、民間投資を喚起する成長戦略

 しかし、実際に行われたのは、1、大胆な経済政策という「異次元緩和」だけだった。2も3も、歴代の政権がやってきた財政出動による経済刺激策と変わりはなかった。

「1億総活躍社会」で死ぬまで働く

 2、機動的な財政政策 3、民間投資を喚起する成長戦略は、ほとんど機能しなかった。というのは、安倍政権がお金をつぎ込んだのは、 「国土強靭化」とうたったインフラ整備で、これはかつてコンクリート政治と呼ばれたものだったからだ。東日本大震災の復興支援もあったから批判はできないが、従来通りの手法では、デジタルエコノミーに転換していく日本経済の成長投資とはならなかった。そのため、日本のデジタルエコノミーは、中国にすら大きく負けてしまった。
 現在、この国には、次世代を切り開く技術がほとんどなくなってしまった。
アベノミクスは2015年になると、「新アベノミクス」(アベノミクスの第2ステージ)として、「新3本の矢」が打ち出された。その「新3本の矢」とは、次のとおり。

1、希望を生み出す強い経済
2、夢を紡ぐ子育て支援
3、安心につながる社会保障

 これをいまも覚えている人は少ないだろう。覚えていて検証してみれば、どの矢も中途半端で終わっている。強い経済など戻ってこず、保育所は増えたが幼児教育の無償化は低所得世帯だけ、子供の成長環境はますます厳しくなっている。社会保障も増税をしたのに、どんどん削られてきた。
 しかも、新3本の矢が目指すのは、「GDP600兆円」とされ、「1億総活躍社会」が提言された。
 そうして、「人生100年時代」が始まり、「生涯現役」が強調された。要するに、「死ぬまで働いて暮らせ」ということで、「余生」とか「リタイア」という言葉は消えてしまった。日本人の人生からゆとりがなくなってしまったと言っていいのではないだろうか。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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