連載353 山田順の「週刊:未来地図」「集団免疫」はコロナに打ち勝つ 最終手段なのか?(下)

収束宣言も集団免疫も1国だけでは無意味

 ここで、中国の話に戻る。
 前記したように、中国はコロナの収束を宣言して、経済活動を再開した。しかし、集団免疫を獲得したわけではない。単に感染者数、死亡者数が減っただけである。
 新規の確認感染者が出なくなったとはいえ、隠れ感染者はまだいっぱいいるはずである。となると、いつまた感染爆発が起こるかわからない。
 つまり、そのリスクをかかえたままで、国内で人が行き来できるようになっただけだ。
 となると、海外の人間は中国には行かないし、中国側も海外からの渡航者を拒否するか、検疫し続けなければならない。中国人もまた海外から入国を拒否されるか、検疫を課せられる。
 つまり、いくら国内で感染が落ち着き、人の移動や交流を再開させて経済を立ち上げても、海外からの人の流入と、自国民の海外渡航を、今後も規制し続ける限り、経済はほぼ国内でしか回らない。
 これで、コロナが収束したと言えるだろうか? また、経済活動を再開したといっても、グローバル経済に十分にコミットできないのだから元には戻らないだろう。世界中がつながり、サプライチェーンも深く結びついているなかで、1国だけが収束できても、それは収束したことにならないのだ。
 では、集団免疫を獲得した場合はどうだろうか? これも1国だけ達成しても意味がない。他国も達成していなければ、国境を開けたとたんに、集団免疫は効かなくなってしまう。中国の人口は約14億人である。となると、6割達成で8億4000万人。そんなに大量の感染者が出るまでにいったいどれくらいの時間がかかるだろうか?また、何人が死ぬだろうか? 
 さらに、世界のすべての国が集団免疫を獲得しない限り、どの国も鎖国を続けなければならないとしたら、その達成までにいったいどれくらいの時間かかるだろうか? 

スウェーデンのギャンブルは成功かも?

 スウェーデンでは、世界で一国だけ、首相自らが宣言して集団感染を政策にしている。多くの欧州諸国がロックダウンしたというのに、あえてしないで、今日まで個人の自由を貫いてきた。
 これを、メディアも他国も「ギャンブル」と批判しているが、見方を変えれば、もっとも正しい収束法かもしれない。
 4月20日、保健当局の疫学者、アンダース・テグネル博士は、地元メディアに対し、「首都人口の多くが免疫を獲得し、感染抑止に効力を発揮し始めた。数理モデルは5月中(の集団免疫達成)を示している」と述べた。
 また、スウェーデン政府は、人口200万人以上のストックホルム首都圏の人口の30%、つまり60万人以上がすでに感染して免疫を持っていると発表した。
 となると、ストックホルム首都圏で人口の6割が感染するのは、5月中は早いとして、あと3カ月ほどで達成されるだろう。
 ただし、5月4日時点で、発表されているスウェーデンの感染者数は約2万2000人、死者数は約2600人である。
 感染者数も死者数も、同じ北欧のノルウェー(死者数213人)フィンランド(死者数240人)に比べると圧倒的に多い。
 スウェーデンの人口は、約1020万人。日本の約12分の1だ。とすると、日本との人口比で換算すると、感染者数は26万4000人、死者数は3万1200人になる。しかも、実際の感染者数がこの10倍とすれば、死者数は31万2000人になる。
 日本でこんな数字が出たら、国民ははたして耐えられるだろうか?

 ただ、人口100万人あたりのスウェーデンの死者数を見ると、265人。ロックダウンを行なってきたほかの欧州諸国と大差ない。ベルギー677人、スペイン540人、イタリア478人、英国419人、フランス381人など、100万人あたりの死者数がスウェーデンより多い欧州諸国はたくさんある。
 ということは、スウェーデンの政策はそこまでギャンブルとは言えず、じつは成功する可能性が高いのかもしれない。なにより、ロックダウンをして国内経済をいったん停止させた国に比べたら、経済はほとんど傷ついていない。

最悪シナリオは集団免疫ができないこと

 ここまで述べてきたことをまとめると、ロックダウンのような封鎖政策は解決策にならない。最終的な解決策は、人類全体が集団免疫を獲得するほかないということになる。ただ、自然感染にまかせていたら、何年かかるかわからず、死者も膨大になる。
 そこで、なんとしても、ワクチンを早くつくることが必要だ。
 もし、ワクチン開発が成功して早期に実用化されれば、集団免疫の獲得も早くなり、感染は1年から2年で収束する。経済的なダメージも少なくてすむ。
 しかし、開発が遅れたらどうだろう。その場合は、第2波、第3波が考えられるから、ロックダウンを再開したり、また解除したりしながら、感染爆発を抑え、重症化患者をできる限り助けていく。そういう道しかないだろう。この場合、収束まで2年から3年はかかるかもしれない。
 さらに最悪のシナリオもある。それは、新型コロナウイルスが変異を繰り返し、ワクチン開発が進まないうえ、できたとしても抗体獲得が不確実になってしまうこと。また、たとえ効果があるワクチンができたとしても、抗体が1年ほど消えてしまうとしたらどうだろうか?
 こうなると、集団免疫は永遠に獲得できないから、私たちは生活スタイルを変えていくほかなくなる。まさか、そんな未来がこないことを、いまは祈るほかない。  (了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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