連載367 山田順の「週刊:未来地図」対策は失敗続きなのにコロナ感染防止は成功: なぜ、日本の“奇跡”は起こったのか?(下2)

欧米とアジアは違う「ウイルス変異説」

 ウイルスは常に変異(ミューテーション)をとげるものだという。ウイルスの変異を分析した英ケンブリッジ大などの研究チームによると、新型コロナウイルスのリボ核酸(RNA)の塩基配列について変異パターンを比べると、ウイルスは3タイプに大別されたという。
 まずは、武漢を中心に中国で蔓延したAタイプ。次が、Aから分かれて中国からアジア諸国に広がったBタイプ。そして、Bタイプから分かれてアメリカや欧州各国に広まったCタイプだ。 つまり、日本で感染拡大せず、死亡者も少ないのは、欧米とはウイルスのタイプが違うからという説が、この研究から推測できた。
 日本の国立感染症研究所(感染研)も、4月28日に、同様な研究結果を公表した。中国発のウイルスとアメリカ・欧州のウイルスは変異の結果、違うタイプになっていたというのである。そのため、日本ではまず「武漢株」による第1波が起きた。この第1波は、やがて収束し、3月からは「欧米株」が入ってきて第2波が起きた。
 そこで推察できるのは、第2波の欧米株は、国を閉じ、クラスター追跡を行い、緊急事態宣言の自粛要請を国民がよく守ったので収束できたということだ。
 これは、日本ばかりか、アジア諸国全体に言えることである。
 また、日本に上陸した欧州株が、日本国内で独自に変異し、毒性が弱まったということも考えられる。
 というのは、感染研の発表によると、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」で確認された陽性患者のうち70人の新型コロナウイルス・ゲノム情報を武漢株と比較したところ、1塩基のみ変異しており、この変異株は乗員と乗客以外から検出されなかったというからだ。
 このような「ウイルス変異説」は、今後のさらなる検証によって確かめられるだろう。

「すでに集団免疫ができている」説

 日本人はすでに、集団免疫を獲得しているという説も出ている。武漢で謎の肺炎が発生したのが昨年暮れのこと。
 しかし、日本はまったく無警戒で、昨年12月には71万人、今年1月には92万人もの中国人を受け入れている。武漢が封鎖され、ダイヤモンドプリンセスが寄港した2月になっても、入国を規制しなかったため、10万人を超える中国人が来日した。(P9につづく)
 つまり、この3カ月間で、多くの日本人が「武漢株」に感染し、ほとんど無症状のまま免疫を獲得したというのである。
 京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授と、吉備国際大学の高橋淳教授らの研究グループが唱えた説で、この説を紹介した5月11日の「夕刊フジ」記事『新型コロナ、日本人の低死亡率に新仮説…すでに“集団免疫”が確立されている!? 識者「入国制限の遅れが結果的に奏功か」によると、感染力や毒性の異なる3つの型のウイルス(S型とK型、G型)の拡散時期が重症化に影響したという。
 簡単に説明すると、研究チームは新型コロナウイルスに感染した場合、インフルエンザに感染しないという「ウイルス干渉」に着目。インフルエンザの流行カーブの分析で、通常では感知されない「S型」「K型」の新型コロナウイルス感染の検出に成功した。そして、日本で拡散したのはK型という初期の弱毒性ウイルスであり、欧米に拡散したのはその後に変異して感染力や毒性が高まった「G型」だというのだ。
 よって、日本に遅れて入ってきた「G型」は、すでに「K型」で集団免疫ができていたため、第2波にはなっても感染拡大しなかったという。
 しかし、そんなに早く集団免疫が獲得できるものなのか? 今後、抗体検査が進めば、この説の真偽ははっきりしそうだ。

「アジア人は遺伝的にコロナに強い」説

 日本ばかりか、人口100万人当たりの死亡者数は、アジアのほぼすべての国で圧倒的に少ない。そこで、アジア人は特別で、コロナに強い遺伝的要素を持っているという説が成り立つ。
 この説が真実味を増すのは、同じアジアの国でも、台湾、香港、韓国など、コロナ対策“優等生”の国と、“劣等生”の日本で、死亡者数にほとんど変わりがないことだ。ただ、この説を肯定してしまうと、これまでのすべての政策は無駄、なにもしなくてもよかったことになる。
 また、アジア人全般は、これまで流行したさまざまな感染症により、なんらかのかたちで、コロナウイルスに対しての免疫を獲得しているという説もある。これが本当なら、やはり、強い対策など必要なかったということになる。インフルエンザと同じ扱いでよかったことになる。
 ただし、アジア以外でも、死亡者が少ない国がある。オーストラリアもニュージーランドも100万人当たりの死亡者数は4人である。
 こうなると、アジア人だからとは言えなくなる。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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