連載384 山田順の「週刊:未来地図」 トランプが破壊する世界経済、日本もどん底に!「コロナ禍」はまだ序の口(下)

「創造的破壊」が経済を発展させる

 コロナによって、資本主義の本質が忘れられようとしている。資本主義の本質は、ヨーゼフ・シュンペーターによって提唱された「創造的破壊」(creative deconstruction)による経済発展である。資本主義においては、時代に適応できなくなった産業には、資本が投下されない。
 資本主義は、自由主義によって成立し、そのダイナミズムは、停滞する産業・商品に代わって、絶えず新しい成長産業・商品が生まれることにある。これが、創造的破壊であり、この邪魔をするのが政府の経済政策である。
 政府は、補助金によって、本来市場から退出すべき産業を生かし続ける。政府がやらなければいけないのは、旧産業の保護ではなく、新しい成長産業の成長を促進し、旧産業から新産業に雇用を移すことだ。
 経済の自律性を無視して、市場に手を突っ込み、規制や補助金によって景気をよくすることはできない。

恐慌を悪化させたフーヴァーの経済介入

 アメリカの経済史をひもとけば、政府が経済対策をやればやるほど景気が悪化した例は多い。
 おそらくその最大の例は、大恐慌後のハバート・フーヴァー大統領が行った経済政策だろう。一般的にはフーヴァーは、自由放任主義で不況を放置したため、かえって恐慌が悪化したと思われているが、実際は逆だ。
 フーヴァーは、当初、楽観論に立ち「好景気はもうそこまで来ている」(Prosperity is just around the corner.)と繰り返し発言したが、1年たっても回復しないため、慌ててケインズ主義に基づく積極的な経済介入を行った。
 しかし、それが完全に裏目に出て、かえって恐慌を大恐慌に悪化させてしまったのである。フーヴァーは、財政出動も公共投資も産業援助も、どんどん行った。その後のフランクリン・ルーズベルト大統領も同じで、結局、第二次世界大戦が終わるまで、世界の景気は回復しなかった。
 いまでは忘れられてしまったが、フーヴァーとは対照的に、不況時に政府は手出しせず、市場の自由な調整に任せたほうがよいと主張したのが、財務長官のアンドリュー・メロンだった。
 彼は、1870年代に起こった南北戦争後不況に関して、市場に任せたために景気は1年足らずで回復したと力説し、政府がやるべきことを挙げた。それは、「労働を清算」「株式を清算」「農民を清算」「不動産を清算」という「清算政策」であり、これによって経済から腐敗物を一掃してしまうというものだった。そうして、次世代をになう効率的な事業だけを補助、奨励するというものだった。

アメリカばかりか中国も大きく沈む

 いまも、このアンドリュー・メロンの政策は生きている。いくらコロナ禍とはいえ、政府が産業を守るために、補助金をバラまけばいいというものではない。そんなことをすれば、ニューノーマルが終わった後にも、旧来産業が生き残り、経済は回復しない。それ以前に、現在の不況は大恐慌になってしまうだろう。アップルやネットフリックスは、政府の援助により発展してきたのではない。
 トランプは、自国の経済史をまったくわかっていないから、バラマキを続けるだけだろう。悲観的にならざるをえない。
 もう一つ、ここで言っておきたいのは、おカネを刷って経済を成長させることはできないということだ。現在、世界中で行われている経済対策の原資は、ほぼ国債である。新規国債を発行し、政府が中央銀行からおカネを得ることでまかなわれている。
 これは、需要がなき見せかけの成長だから、必ず反動がくる。
 さらにもう一つ言えば、コロナ禍からいち早く脱した中国は、世界でいちばん早く経済回復をとげると考えられている。しかし、そんなことはありえない。
 なぜなら、中国ほど国家が経済に介入し、企業を補助金漬けにし、国営企業ばかりにしてしまった国はないからだ。鄧小平は、国家統制経済の弊害に気がついて規制緩和したが、習近平は毛沢東に回帰し、その逆をやり続けている。
 ファーウエイ、アリババ、テンセントが、北京のコントロールで動くとなれば、もう発展はありえない。中国も、コロナ禍で大きく沈む。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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