連載391 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍で経済はボロボロ。 それでも株価が高いたった一つの理由とは?(上)

 今回は、コロナ禍が止まらず経済はボロボロなのに、なぜ株価は上がったままなのか? という疑問に答えてみようと思う。じつは、このことを聞かれることが多かったのだが、答えはあまりにも簡単なので、書くのをやめてきたのだ。
 コロナ禍が起こる前まで、世界の株価はバブルだった。だから、いずれ弾けると思われていた。とはいえ、それでも実体経済をある程度は反映していたのだ。しかし、コロナ以後は違う。株価はたった一つの理由で、現在の高価格を維持しているのだ。

ニューヨークも東京も最高値更新の勢い

 まさかと思うが、現在の株価を見て、コロナ禍の経済に対する影響なんてたいしたことないと思う人はいないだろう。実際のところ、現在の世界経済はボロボロである。
 コロナ禍が世界最悪のアメリカはもとより、欧州も日本もボロボロ。感染拡大を収束させた中国でさえ、回復したと言っているものの、コロナ以前の水準にはほど遠い。
 ところが、世界の株価は今年3月の底値から大幅に戻し、いまも高水準で推移している。NY株価(ダウ平均)は、一時は2万ドルを割ったというのに、6月中には2万7000ドルを超えるまで回復、本稿執筆時点(7月27日米国時間)でも2万6000ドル台を維持している。
 NY株価の市場最高値は今年の2月11日付けた2万9551ドルだから、今後、もしこれを突破するようなことがあれば、経済学者、証券アナリストなどは、全員、退場しなければならないだろう。
 すでに、ナスダックは6月後半から、何度も史上最高値を更新している。
 東京株価(日経平均)もニューヨークとほぼ同じ動きをしてきた。3月を底値に上昇が続き、6月8日には、ついに終値で2万3000円を突破。そこからは下がったものの、現在も2万2000円台を堅調に維持している。もし、バブル崩壊後の最高値2万4000円台を突破すれば、これまでのすべての経済理論、株式理論はすっ飛んでしまうだろう。

上がっているのだからとにかく理由を付ける

 この状況に、これまで諸説が飛び交い、最近は「株価は下がらない」「2番底は来ない」という説が有力になってきた。しかも、「今年中は、この相場基調が続く」という予想が多いから驚いている。
 6月に株価が大きく上昇したとき、「アメリカの失業率が当初の20%予想をはるかに下回る13.3%だったから」ということが盛んに言われた。正常な頭なら、13.3%でも大きなネガティブ要素だから、そんなことを理由にできるわけがない。ところが、コロナ禍で思考能力が麻痺してしまうと、こういった“奇説”も受け入れてしまう。
 同じく、「コロナではIT企業は影響を受けない。GAFAなどのIT企業は今後も成長する」とされ、IT企業株は業績いかんにかかわらず買われた。ナスダックが史上最高値をつけたのも、これが理由だ。しかしIT企業だけがコロナ禍の影響を受けないことなどない。コロナ禍は、どんな企業にもマイナスだ。
 また、ワクチン開発ニュースに反応して上がるのも、最近の大きな傾向だ。しかし、どんなに早く見積もっても、ワクチンは来年夏までには実用化されない。しかも、たいして効かないかもしれない。
「ワクチン開発が進み、第2波が来ないか、規模が小さければ、経済復興は進み、景気はもうこれ以上落ち込まない。株価もじわじわと上がっていく」と言うアナリストがいる。
 こういう声を聞くと、上がっているのだから、なんとかその理由を付ける。それだけで言っているにすぎないと思う。

日経平均は4分の1になってもおかしくない

 しかし、誰がなにを言おうと、株価と実体経済は完全に乖離している。IMFの2020年の世界経済アウトルックは、マイナス4.9%。日本についてはマイナス5.8%である。しかし、これはコロナ禍を過小評価したにすぎず、実質的にはマイナス10%はいくと思われる。 ある大企業幹部に聞くと、売上高マイナス20%で今年の事業計画を見直しているという。業種によって差はあるものの、「2割は落ち込む」というのが、大方の見方のようだ。利益率にもよるが、一般的に売上高が20%落ち込めば、利益はほぼ失われる。 もし、日本経済全体が2割減となれば、GDPは約100兆円が失われる。
 知り合いの証券ディラーはこう言う。
「株価は1株当たりの利益(EPS)に株価収益率(PER)を乗じることで算出できます。これが、一般的な株価の見方です。それで、PERのほうをコロナ禍でも変化しないと仮定してみても、EPSは4分の1に減ってしまいます。
 つまり、日経平均は、現在の4分の1になってもおかしくありません。日経平均の場合、日銀をはじめ公的資金が大量に投入されていることもあり、実体経済とはなんの関係もなくなっています」
 ようするに、いまは市場原理がまったく機能していない。そういう相場になっている。実体経済を見て株価を語ることに、まったく意味がなくなったのだ。
では、なぜ、株価は上がったのか?
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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