連載426 山田順の「週刊:未来地図」金融緩和の限界「コロナバブル」は必ず崩壊する(下)

バブルは異常な投機によって生まれる

 かつて、バブルは景気の過熱によって生まれた。経済学のテキストや経済解説では、バブルは異常な投機で生まれるとされている。

 バブルとは、株、土地、建物、絵画、宝石など各種の資産価格が、投機目的で異常に上がり続け、その結果、それらの資産額が膨らみ、大きな評価益が発生しているかのように見える状況のことを言う。

 世界最初のバブルとされるのが、16世紀オランダの「チューリップ・バブル」。その後、17世紀の英国で「南海泡沫事件バブル」が起こった。以後、これまで数々のバブルが起こっては崩壊してきた。20世紀最大の経済危機、1929年の世界大恐慌も、株価バブルの崩壊が引き起こした。

 しかし、近年のバブルは、市場の過熱、異常な投機で起こっているのではない。中央銀行が自らつくり出しているのだ。

 いったいなぜ、こんなことになったのだろうか?

「金本位制」から「貨幣(ドル)本位制」へ

 さかのぼってみると、すべては、1971年の「ドルショック」(「ニクソンショック」とも言う)で始まったと言えるだろう。このとき、ニクソン大統領は、財政赤字の解消のため、ドルと金との交換停止を表明し、「金本位制」(ゴールド・スタンダード)が崩れた。これにより、アメリカは金の裏付けなしにドルを発行できるようになった。これは、天地がひっくり返るような大変な出来事で、以来、国際金融は激変し、実体経済と金融は次第にかけ離れてい

くようになった。

 ドルショックにより国際通貨制度は、「ブレトンウッズ体制」から「スミソニアン体制」(各国通貨をドルに対して増価し、為替変動幅を1%から2.25%に拡大)に移行した。そして、1973年からは「変動相場制」が採用されるようになった。

 金本位制だと、不況になっても金の量に基づいた通貨の発行しかできない。そのため、不況はますます深刻化する。しかし、この縛りがなくなったため、各国はいくらでも貨幣を刷れることになった。

 つまり、これが、中央銀行がバブルをつくり出す遠因となってしまったのである。

 金本位制がなくなった後は「通貨本位制」とも言うべき世界になった。もっと具体的に言うと、「ドル本位制」になったのである。

 そして、1990年の冷戦終結後にグローバル化が進んで、資本移動がさらに自由になると、世界を巻き込むバブルがほぼ10年おきに起こるようになり、そして、その度に中央銀行が金利の引き下げと量的緩和を行うようになった。中央銀行による「バブル循環」が繰り返されたのである。

出口なし、もっとも危ないのが日銀

 このように見てくれば、コロナバブルがいずれ崩壊するのは間違いない。この崩壊を止めるためには、中央銀行がさらなる金融緩和を行うほかないが、それはもう不可能である。マイナス金利、非伝統的な量的金融緩和は最終手段であり、もう打つ手は残っていない。もう、バブルを次のバブルで止められないのだ。

 コロナショックで、中央銀行は不良債権化するはずのあらゆる資産を引き受けた。これを続けていけば、いずれ限界がきて、ダムが決壊するようにバブルは崩壊し、財政は破綻する。ここまで、次々にバブルの崩壊を先送りしてきたが、次の先送りはもうない。

 それで、主要国の中央銀行を比べてみると、もっとも危ないのが日銀である。いまや、日銀は異次元緩和に輪をかけた狂気の緩和を行なっており、バランスシートを拡大させ続けている。

 今年6月時点で、日銀の総資産の対GDP比は120%を超えており、ECBの約55%、FRBの約30%をはるかに上回っている。(P00に続く)

 日銀はいまや、中央銀行としての禁じ手のすべてを行なっている。コロナショック発生時点で、年間約80兆円の国債買い入れ限度を撤廃、ETF買いも上限を年6兆円から年12兆円に引き上げた。

 さらに、「CP」(コマーシャルペーパー)と社債の購入額を増額し、残高合計20兆円まで拡大した。こんなことをし続ければ、日本企業はほとんど日銀の持ち物になってしまう。

 こうした緩和のうち、とくにETF買いは世界の中央銀行のなかで日銀だけが行なっている異常なものだ。FRBもECBもそこまでやっていない。

 中央銀行は通貨の発行権を持っている。いくらでも貨幣を発行できる。となると、理論的には全株式を買えてしまう。つまり、それは市場がなくなるということを意味するので、最大の禁じ手である。

 しかし、株買いというのは1度始めたらやめられない。売れば、そこからバブルの崩壊が始まってしまうからだ。つまり、もう日銀には出口はない。

 このまま、水位が上昇してダムが決壊するのを、ただ待つだけである。そのときは、FRBが出口戦略に入る2024年ではないかと見られている。

海外に移した資産で日本を復興させる

 このように、バブル崩壊は、中央銀行が量的緩和を手仕舞いすることで起こる。そのときは、日本のように財政状況が極端に悪い国だと、財政破綻まで引き起こす可能性がある。もう日本には、量的緩和、財政出動と手段を出尽くしてしまったため、財政破綻を先送りする力も残っていない。

 コロナ禍が収束してポストコロナの時代がやってくる。しかし、その時代は、コロナ禍で失われた日常が戻るわけではない。これまでこの国に蓄積された富が吹き飛んだ荒涼たる世界になるだろう。杜甫の詩にあるように「国敗れて山河あり」の世界だ。

 しかし、日本はそこから復興しなければならない。

 私は、かつて『資産フライト』と『脱ニッポン富国論』(いずれも文春新書)という2部作を書き、日本脱出を訴えた。経済成長できず、衰退の一途をたどるこの国では、必死にがんばっても報われない。政治家や官僚、企業トップなどの社会の指導層は、これまでの繁栄にあぐらをかいて、資産を食いつぶしているだけだからだ。

 それなら、外に出て成長すべきだと、私は主張した。とくに、資産家は資産を円からドルに移して資産を保全すべきだ。そうして、国家が破綻した後に、その資産で日本を買い戻すようにしてほしい。そうしないと、日本は海外の投資家の草刈り場になってしまうだろう。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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