3つのうち1つを諦めるのが金融政策
中国政府は、長年、自国の産業を守り、育てることばかりに注力し、そのためには国際ルールすら無視してきた。世界第2位の経済大国になったというのに、「発展途上国」として扱われることを世界に強要し続けている。
そのため、中国の富裕層は人民元を信用せず、得た富を国外に持ち出すことに血眼になってきた。
中国は、このこともあって、資本の自由化、変動相場制への移行を頑なに拒んでいる。
国際金融では、次の3つの政策は同時に実現することができない、できるのは2つだけとされてきた。これは、「マンデルフレミングモデル」に基づくもので、国際金融のトリレンマとされている。
(1)為替相場の安定(固定相場制)
(2)独立した金融政策
(3)資本移動の自由
つまり、一国が対外的な通貨政策を行うとき、このうちの1つを諦めなければならい。現在、世界の主要国は(1)の為替相場の安定を諦めている。(2)の独立した金融政策を取れば、必ず内外の金利差が生まれ、このとき(3)の資本移動が自由ならば、そこに金利差を狙った資本流出入が起こる。そうなると、どうしても為替相場の変動が起きてしまう。それが中国は嫌なのだ。(ちなみに、(2)の独立した金融政策を諦めたのがユーロ圏内の国々である)
しかし、中国が本当に「デジタル人民元」によるドルの金融支配を崩したいなら、資本移動の自由化に踏み切るしかない。習近平が、この辺のところをどう考えているのかは、情報がなくてわからない。
しかし、香港を見る限り、自由化など考えてもいないと思える。
ないとは言えない「デジタル円」の悪夢
最後になったが、じつは、私はCBDCを含むデジタル通貨には反対、というか大いなる懸念を持っている。その理由は、デジタル化全体に対しても言えることだが、デジタルになると、嘘、偽りがすべて消えてしまうからだ。
すべてが透明な世界。それがデジタルワールドで、これは人間世界ではない。おカネの取引はどこまでも透明でなければならないが、はたしてそれで人間社会は成り立つだろうか?
人は嘘もつく。不正も行う。しかし、デジタル世界は、そういう“自由”をすべて奪ってしまい、国家による統制を強める。中国で「デジタル人民元」が実用化されれば、その後はどんな種類の自由も失われるだろう。
CBDCの未来を考えると、最初は無償配布だろうが、その後、有償配布に変わり、その際に国は預貯金より有利な利息を付けてくるだろう。そうすれば、国民は喜んで現預金をCBDCに移行するようになる。
借金漬けで財政破綻が懸念される日本政府にとって、「デジタル円」は、まさに救いの神だ。
「デジタル円」が導入されて数年後、多くのの現預金が「デジタル円」に替わったところで、政府は残りの現預金のうち1人当たり一定の額を超える部分の通用力を失わせる措置を取る。
これは、終戦直後に政府が行った「新円切替」のデジタル版だ。こうして、国民資産は、政府に吸い上げられ、国は助かる。もしこんなことが起これば、年金に頼って暮らしている高齢者は、ほぼ路頭に迷うことになる。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のaまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com
>>> 最新のニュース一覧はこちら <<<
RECOMMENDED
-

客室乗務員が教える「本当に快適な座席」とは? プロが選ぶベストシートの理由
-

NYの「1日の生活費」が桁違い、普通に過ごして7万円…ローカル住人が検証
-

ベテラン客室乗務員が教える「機内での迷惑行為」、食事サービス中のヘッドホンにも注意?
-

パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-

日本帰省マストバイ!NY在住者が選んだ「食品土産まとめ」、ご当地&調味料が人気
-

機内配布のブランケットは不衛生かも…キレイなものとの「見分け方」は? 客室乗務員はマイ毛布持参をおすすめ
-

白づくめの4000人がNYに集結、世界を席巻する「謎のピクニック」を知ってる?
-

長距離フライト、いつトイレに行くのがベスト? 客室乗務員がすすめる最適なタイミング
-

機内Wi-Fiが最も速い航空会社はどこ? 1位は「ハワイアン航空」、JALとANAは?
-

「安い日本」はもう終わり? 外国人観光客に迫る値上げラッシュ、テーマパークや富士山まで








