連載450 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍でますます富む富裕層: どうなる?「国外移住」と「富裕層課税」(上)

 コロナ・パンデミックは世界中で格差を拡大させています。富裕層はますます富み、貧困層はますます貧しくなっている。

 そんななか、富裕層ビジネスは活発化し、富裕層の「国外移住」のブームは続いている。このままいけば、世界中で「富裕層課税」が強化され、世界は社会主義化する。そうなると、富裕層はどっと国を出ていくかもしれない。

超富裕層の資産は日本のGDPの2倍

 クリスティーズは、クリスマスシーズンに向けて、いま、オンラインで「ラグジュアリー・ウィーク」を開催している。サザビーズも、「ザ・フェスティバル・オブ・ワンダー」と銘打ったオンラインライブオークションを開催している。

 関係者によると、昨年を上回る売上で笑いが止まらないという。記録的なのは、サザビーズのジュエリー部門の売上で、昨年比で9倍だという。

 10月にUBSと国際監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が発表した報告書によると、保有資産が10億ドル(約1060億円)を超える、いわゆるビリオネア(超富裕層)の総資産額は、今年、過去最高を記録した。 

 世界のビリオネアは7月末時点で2189人、資産総額は約10兆2000億ドル(約1080兆円)。これは、日本のGDPの2倍だ。

 なにしろ、株価がここまで上昇し、ほかの金融資産も値上がりしているのだから、これは当然だ。世界でもっとも富裕層が多いアメリカでは、GAFA +Mを中心としたITテクノロジーやバイオヘルスなどの業界で、オールドマネー(従来の富裕層)をしのぐニューマネーが誕生している。

 その筆頭は、テスラのイーロン・マスクだろう。

 「フォーブス」などの報道によると、イーロン・マスクの保有資産額は、今年3倍以上に膨れ上がり、すでに900億ドルを超えたという。また、「ブルーグバーグ」の7月の報道によると、アマゾンのジェフ・ベゾスの純資産は、7月20日の1日だけで、130億ドル増加した。これは個人純資産額の1日での増加幅として史上最高記録だという。しかし、その後、NYダウはさらに上昇、いまは3万ドルなのだから、記録はどんどんどん塗り替えられているだろう。

 アメリカでは、家賃や住宅ローンの支払いができず、立ち退きの危機に直面している人々がいる。また、失業者も1000万人いる。それなのに、この有様である。

「ゴールデンパスポート」が大人気

 富裕層になると、ライフスタイルが変わる。「5つの国旗論」で人生を送るようになる。以下が、その「5つの国旗論」だ。

 第1の国旗:国籍(パスポート)を持つ国

 第2の国旗:仕事をする国(所得を得る国)

 第3の国旗:居住のベースとなる国

 第4の国旗:資産運用を行う国

 第5の国旗:余暇を過ごす国

 しかし、最近は、「パスポートを2つ以上持つこと」と、「国外移住」がブームになっていて、コロナ禍がこのブームを加速させている。

 たとえば、グーグルの元CEOエリック・シュミットが、なんとキプロスの市民権(国籍)を申請したと、「ブルーグバーグ」(12月3日)が伝えた。これは現地紙の報道をなぞるものだから、どうやら本当らしい。

 キプロスの制度は、投資の見返りに国籍を与えるというもので、「ゴールデンパスポート」と呼ばれている。EU加盟国の国籍があれば、EU域内の自由な移動などEU市民としてのすべての権利が得られる。キプロスやマルタなどの小国は、EU加盟国の立場を利用して、ゴールデンパスポートで投資を集めてきた。

 これに、いままでは、中国人やロシア人の富裕層などが群がってきた。しかし、アメリカ人がこれをするのは珍しいので、ニュースになったのである。

「ブルーグバーグ」記事ではこう書いている。

《市民権コンサルティング会社のエイペックス・キャピタル・パートナーズによると、一部には社会不安への懸念を理由に2つ目のパスポートを検討している人もいる。11月の選挙以降、同社への顧客からの問い合わせは650%増加したという》

 ちなみに、キプロスとマルタのゴールデンパスポートは世界から批判を浴び、両国政府とも制度の停止を発表している。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のaまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

>>> 最新のニュース一覧はこちら <<<

 

タグ :  ,