連載460 山田順の「週刊:未来地図」ついに炭素税導入! 政府が慌てて策定した 「グリーン成長戦略」の危うさ(完)

バッテリーが切れたら身動きがとれない

 化石燃料による発電がなくなり、石炭・石油・天然ガスが燃料として使えなくなり、すべてのクルマが「EV」になった未来を考えてみよう。

 まず、家庭からは、ガスコンロや石油ストーブが消える。そして、エネルギーはすべて電気になる。しかし、その電気代は驚くほど高い。

 ガソリン車がなくなるで、ガソリンスタンドもなくなる。その代わり充電スタンドがそこら中にできる。ただ、「EV」は充電時間がかかるので、充電スタンドはいつ行っても長い列ができる。

 「EV」時代になると、軽自動車というカテゴリーがなくなり、クルマの値段が上がる。若者はマイカーを持てなくなる。日本の冬は雪が降り、豪雪地帯もある。そういったとこでは、いったん雪に閉じ込められるとバッテリー切れになり、「EV」では身動きがとれなくなる。

 日本は地震が多い。大地震が来ると、停電が起こる。そのときどうするのか?「EV」は動かせない。自家用発電があるが、燃料はガソリン。すべて、電気頼みだと、なにかあったとき社会は動かない。

すべての自動車を「ZEV」にしろと環境団体

 「カーボンニュートラル」政策が現実的でないのは、そもそも電気をつくるために、化石燃料を使用していることだろう。したがって、本当に温暖化ガスを減らすなら、電力をすべて「グリーン電力」(再生可能エネルギーで発電された電力)に換えなければならない。

 つまり、太陽光、風力、バイオマス、小水力、地熱などの自然エネルギーによる発電を大幅に整備しなければならない。しかし、政府の現在のエネルギー計画では、2030年度の電源構成は、LNG火力27%程度、石炭火力26%程度、再生可能 エネルギー22〜24%程度、 原子力20〜22%程度、石油火力3%程度となっている。しかも、これはあくまで目標だ。

 電気をつくるのに二酸化炭素の排出があるのに、それを無視して、「ゼロエミッション」(排出ゼロ)を唱えているのが、環境団体、環境活動家である。

 彼らは、「EV」しか認めない。たとえば、「HV」は、典型的なガソリン車に比べて3分の1程度にしか二酸化炭素の排出量は減っていないなどと、データを持ち出して主張する。そうして、すべての自動車を「ZEV」(ゼロエミッションビークル)にすることを提唱する。

 そのため、欧州をはじめ、世界最大の自動車市場を誇る中国、アメリカではカリフォルニア州などが、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を2030〜2040年にかけて禁止するとした。この中には、「HV」「PHV」も含まれる。ただ、中国はあいまいで、「HV」「PHV」は禁止しない方向と言われている。

 もし、「HV」「PHV」の販売も禁止されると、いまのところ、そのダメージをもっとも受けるのはトヨタを筆頭とする日本の自動車メーカーである。

 はたして、日本政府の「グリーン成長戦略」の具体的な中身はどうなるのか? 菅政権では、まったく期待できないことは確かだ。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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