連載516 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視  台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(下2)

連載516 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視  台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(下2)

世界の半導体生産のキングメーカーは台湾

 このように見てくれば、半導体不足を解消するためには、ダメージを受けた工場の再開と、ファウンドリの増産が必要不可欠であることがわかる。ファウンドリが設備投資をして、新工場をつくることも必要だ。

 そして、戦略物質、産業のコメという面と安全保障の面から言えば、国内企業による国内製造が望ましい。しかし、水平分業が極限化した現在では、サプライチェーンは世界中に広がっていて、国内製造は難しい。ただし、前記したように、中国とアメリカはこれを実行しようとしている。

 ではここで、半導体増産の鍵を握るファウンドリの売上高ランキングを見てみよう。四半期ごとにランキングが発表されるが、ここ2、3年、ランキング上位の顔ぶれは同じだ。

 トップは台湾TSMC。2020年度は、市場シェアがなんと50%を上回った。世界の半導体の半分を製造している。第2位は韓国サムスン、第3位は米グローバル・ファウンドリズ、第4位は台湾UMC(聯華電子)、第5位は中国SMIC(中芯国際集成電路製造)となっている。

 このランキングでわかることは、たった一つ。世界の半導体生産のキングメーカーは台湾であるということだ。それもTSMC1社である。

親日・台湾だからと歓迎していいのか?

 今年の1月早々、台湾から、TSMCが日本国内に半導体製造工場を建設するというニュースが飛び込んできた。このニュースを、日本のメディアはいっせいに歓迎した。

 TSMCは現在、台湾以外での投資を積極的に進めており、日本進出はその一環だ。すでにTSMCは、アメリカのアリゾナ州フェニックスで前工程の工場建設に入っている。トランプ前政権は、台湾企業ということで、TSMCをアメリカに誘致したのである。

 したがって、日本もこれにならい、経産省がTSMCの工場建設をバックアップしたと言われている。すでに、TSMCは日本に本格的に進出している。昨年、私が住む横浜の「みなとみらい地区」に大規模なデザインセンターを開設している。

 しかし、いくら親日の台湾とはいえ、TSMCの日本進出は歓迎すべきではない。日本で車載半導体を生産してくれれば、日本の自動車産業は助かる。「渡に船だ」などと思ってはいけない。なぜなら、台湾といえども、ビジネスでは競争相手であり、TSMCは大陸中国と深く結びついているからだ。

「日台連携」「中国進出」が技術流出を招いた

 日本の産業界には、「日台連携」の苦い記憶がある。半導体に関して言えば、倒産したエルピーダは、日台連携によって、日の丸半導体の復活を目指した。経産省が肝いりで、産業活力再生特別措置法を使って、DRAM製造の台湾ファウンドリ「南亜科技」と資本・業務提携を取りもった。エルピーダの最先端技術を南亜科技の工場に導入し、開発は日本、汎用品の生産は台湾という分業体制を構築するはずだった。

 しかし、エルピーダの技術はあっけなく台湾に流れ、類似品の大量市場投入によるDRAM価格の暴落を招いてしまい、赤字が一気に膨らんだのである。

 シャープの「液晶敗戦」も同じ構造だ。台湾の「鴻海精密工業グループ」(ホンハイ)に出資を仰いで業務提携したが、液晶パネルの技術を持っていかれ、結局、復活はならずに低迷したまま、現在にいたっている。

 2008年のリーマンショック前まで、日本の電機産業は、パソコン、携帯、スマホに強かった。しかし、半導体チップの製造を台湾にアウトソースするにつれて、世界シェアを落とし始めた。台湾から半導体が十分に供給されなかったからだ。

 同じように、中国に進出して工場をつくり、現地生産を始めると、日本の電機産業は一気に凋落した。知らないうちに技術を奪われたからである。

 中国も台湾も同じなのである。アメリカでさえ、同じことが起こる。

(つづく)

この続きは4月20日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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