連載642 山田順の「週刊:未来地図」 誰が新首相でも日本の将来は変わらない 人口減少社会の恐ろしさ (完)

連載642 山田順の「週刊:未来地図」 誰が新首相でも日本の将来は変わらない 人口減少社会の恐ろしさ (完)

1000個売れていた製品が900個になった理由

 たとえば、A社は、これまで毎月1000個自社製品を販売してきた。それに合わせて、生産能力を整え、ビジネスを行ってきた。しかし、この製品が以前より売れなくなり、毎月の販売量が900個に落ち込んでしまった。それで、A社では生産コスト、販売経費などを切り詰め、製品の価格を下げた。これが、デフレである。

 政府はこのデフレを解消するために、需要を喚起するほかないと財政出動し、企業に補助金を出したり、消費者におカネを渡したりすることを始める。たしかに、そうすれば、一時的には販売は回復する。

 しかし、1000個売れていた製品が900個になったのが、人口減少、つまり消費者が減ったことにあるとしたら、この財政出動はデフレの解消にはならない。900個しか売れなくなったのは、買い求める人が900人に減ったからであって、買うおカネがなくなったからではないからだ。

 需要を喚起させるための財政出動は、人口が増えている社会だから有効なのであって、人口減少社会では効果はたかが知れているのだ。

企業レポートが伝える希望なき未来

 日本が人口減社会になることは、はるか以前から言われていた。そのため、危機感を持った大企業は、10年ほど前に合同でレポートを発表している。

 2012年、みずほ信託、日産自動車、三井不動産、東芝、旭化成などの経営幹部が委員として参加、社団法人・日本経済調査協議会のもとで、『人口減少時代の企業経営』と題されたレポートがつくられた。

 いま、このレポートを読むと、慄然とする。当時の『週刊現代』(2012年2月20日号)は、このレポートを題材として「人口8000万人、うち3000万人が老人の国になるニッポン 客がいない! 商売が成り立たない! 人口激減社会有名企業はこう考える」という記事を掲載した。

 そこで、以下、その記事からレポートの注目点をダイジェストしてみよう。

[小田急線は成城学園前止まりに]
「人口激減社会では大都市でも郊外から人が消える。そのため鉄道会社は採算をとるために電車の本数を減らし、終着駅を都心寄りに近づける可能性もある。いまは町田方面まで走っている小田急線が、成城学園前止まりになるかもしれない。すると電車が届かない沿線の土地には誰も住まなくなり、最終的には廃線化するしかない」(セゾン投信代表の中野晴啓氏)

[デパートは消えてなくなる]
「企業はオフィススペースを簡素化し、パソコンを使って自宅で仕事をするスタイルが推奨されるようになる。これで街から人が消える。一方で消費者はインターネット通販を見比べて、最も安い価格を提示する会社からモノを買うようになる。百貨店は〝展示ルーム〟となり入場料を取る。お客はそこで実物に触りながら、スマートフォンで買い物をするのが未来の消費の姿です」(政策研究大学院大学特任教授の橋本久義氏)

[大学は「高齢者の憩いの場」に]
「多くの私立学校が閉鎖し、校舎が高齢者のためのスペースに変わる。閉鎖された学校はおそらく老人ホームになり、学校の運動場ではゲートボールやグランドゴルフが行われるようになる」(証券アナリストの植木靖男氏)

[「住宅市場」と「外食市場」は「じわじわと消えてなくなる運命」に]
「ファミレスは3世代家族や子どものいる核家族をターゲットとして生まれたが、そのような世帯は全体の4割を切るまで減ったと見られる。代わりに増えたのが単身者や独居老人で、ファミリーを対象にした形態やメニューではやっていけない。すでに衰退期に入った業態といえる」(元青森大学教授で現代社会研究所所長の古田隆彦氏)

移民を受け入れても日本には時間がない

 人口減少が最初に警告されたのは、1970年代に急激な出生率の低下に見舞われたときである。それが、1990年に1.57となると、「1.57ショック」と言われ、以来、政府は少子化対策を進めてきた。

 しかし、今日まで成果はまったく上がっていない。もはや、日本人同士のなかで人口を増やすことを諦め、次善の策として、欧州諸国がやったように移民によって人口を維持するほかなくなった。
 ところが、政府は移民を増やすことには二の足を踏み続け、国民もいまだに移民を厄介者扱いにしている。

 しかし、このままいくと、頼みの綱の移民すら日本を選ばなくなるのは確実だ。30年以上も経済衰退を続け、一生懸命働いても給料が上がらない国に、どこの国から移民がやって来るというのか。

 日本に残された時間はもうない。このままいけば、ずるずると経済衰退を続けるだけになる。これを阻止し、経済回復ができる政策を誰一人持っていないのだから、私たちの未来は限りなく暗い。
11月になれば、日本の今後を決める総選挙がある。しかし、与野党、そして個人、どれを選択しても結果は同じかもしれない。

(了)

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