連載717  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(上)

連載717  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(上)

(この記事の初出は1月25日)

 これまで私は何度もインフレを警告してきたが、現在の世界情勢を見るかぎり、インフレは止まりそうもない。最悪なのはわが国で、すでにスタグフレーション(不景気下のインフレ)の様相を呈している。
 このままいけば、物価は上がっても給料は上がらない。現金の価値は低下する一方になる。すでに、昨年10月の時点でこのことを警告し、スタグフレーション下でどのような行動をとればいいのかに関して2回ほど言及した。今回は、その3回目である。
 今回、私が言いたいのは、現在のスタグフレーションは、背景にコロナ禍と金融緩和バブルがあるので、単純な伝統的方法では対処できない可能性があるということだ。

 

首相「施政方針演説」でインフレに触れず

 先週、1月17日に通常国会が召集され、岸田文雄首相が就任後初めての施政方針演説を行った。その冒頭、首相は「新型コロナに打ち克つことに全身全霊で取り組む」と述べ、その後も延々とコロナ対策について語り続けた。
 そうしてしばらくしてから、看板の「新しい資本主義」を持ち出し、「成長と分配」「気候変動対策」「経済安全保障」などに言及した。
 しかし、首相は、この演説中に一言も、現在進行中のインフレには触れなかった。私に言わせてもらえば、オミクロン株の感染拡大より、インフレの亢進のほうがはるかに怖い。しかも、いま進行中の日本のインフレは、スタグフレーション(不景気下のインフレ)だから、国民生活を破壊する。残念ながら、岸田首相には、こうした認識がまったくないようだ。
 スタグフレーション下では、物価は上がっても給料は上がらない。上がるどころか下がることもある。この30年間、日本では物価も給料も上らなかったが、この先は物価だけが上がっていくことになる。

市場経済を理解していない賃上げ強要

 岸田首相には、給料が上がらないことが問題だという認識はあるようで、「成長と分配の好循環による持続可能な経済を実現する要となるのが、分配戦略です」と、「新しい資本主義」を説明した後に、こう言った。
 「その第一は、所得の向上につながる賃上げです。春には、春闘があります。近年、賃上げ率の低下傾向が続いていますが、このトレンドを一気に反転させ、新しい資本主義の時代にふさわしい賃上げが実現することを期待します」
 「できるかぎり早期に、全国加重平均1000円以上となるよう、最低賃金の見直しに取り組みます」
 首相は、賃上げ、最低賃金の引き上げは、政治の力でできると思い込んでいるようだ。しかし、それは資本主義の考え方ではない。賃金も物価と同じで、需要と供給で決まるのが、市場経済である。
 国家が給料を決めるということは、社会主義、共産主義であり、本来、やってはいけないことだ。
 しかし、そうしなければ給料が上がらないとしたら、日本経済は本当に病んでいる、衰退していると言うほかない。

(つづく)

 

この続きは3月4日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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