連載831 ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓③ (下)
(この記事の初出は6月30日)
ソ連側にも停戦を急ぐ理由があった
ソ連はフィンランドに対して反転攻勢に成功したとはいえ、甚大な被害を被っていた。その被害は、冬戦争を超え、フィンランド側の被害の3倍に達していたという。
そのため、フィンランドが自身の敗戦を認めた講和は、ある意味、ソ連にとっては“渡りに船”だった。
さらに、ソ連には講和を急ぎたい理由があった。それは、戦後処理を見据えたことで、スターリンが、常に甚大な被害を被る割に戦略的な価値がないフィンランドより、一刻も早くドイツ本国を打ち破りたがっていたことだ。
西部戦線でのアメリカ軍の進撃ぶりを見て、戦後の領土拡大に燃えていたスターリンは焦っていた。フィンランドより、東欧諸国にいち早く進軍し、ポーランドを奪い返して、ドイツ本国に向かおうとしていた。
つまり、フィンランドとソ連は、どちらにも「早く戦争を終結させたい」という思惑があった。
こうして、1994年9月19日、モスクワで休戦協定が結ばれ、フィンランド継続戦争は終結した。
焦土作戦で街を破壊されたラップランド
継続戦争が終わっても、戦争は続いた。フィンランドには、国内に駐留するドイツ軍を掃討する義務があったからだ。この戦争は、主にラップランド地方で行われたため、「ラップランド戦争」と呼ばれる。
ただし、継続戦争でともに戦った兵士たちだったから、激しい戦闘にはならず、当初はドイツ軍の多くは穏便に撤退した。とはいえ、ソ連が要求してきた9月15日までという期限内の撤退と武装解除は難しかった。
しかも、ソ連軍はフィンランド軍の武装解除も要求してきたため、約17万人のラップランド住民のほとんどがスウェーデンとフィンランド南部へ強制疎開させられた。
ウクライナ戦争でつくられたような「人道回廊」は、昔から存在したのだ。
フィンランドのソ連との講和に怒ったヒトラーは、ボスニア湾でドイツ海軍にフィンランドの輸送船を攻撃させ、撤退部隊には「焦土作戦」を命じた。これにより、ラップランドの村々は焼き尽くされた。
いまでは、サンタクロースの街として知られるロヴァニエミの街は、ほぼすべての建物が破壊された。
最後のドイツ軍兵士がフィンランド領を去ったのは、1945年4月だった。その翌月、ヒトラーは自殺し、ドイツは連合国に降伏した。継続戦争とラップランド戦争を通して、フィンランドは冬戦争を上回る約21万人の死傷者を出した。その犠牲のうえに、フィンランドの国家としての独立は維持された。
プーチンの民族一体という理屈は破綻している
このようなフィンランドとソ連との戦争から、なにを教訓とするかは、個々人の捉え方によって違うかもしれない。しかし、一貫して言えることは、ロシアの戦争は昔から変わっていないということだ。
ロシアはあらゆる理屈を持ち出して自身の正当性を語り、領土を奪いにくる。ロシアの為政者は常に勢力の拡大を狙い、人命、人権などを厭わない。
プーチン大統領は、ウクライナ侵攻の前提として「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」を強調した。そしてネオナチからウクライナの人々を解放すると宣言した。フィンランド冬戦争において、スターリンは、フィンランドの人々を腐敗した政権の圧政から解放すると言った。
ありえないストーリーを駆使し、「偽旗作戦」で他国の富や領土を奪うのが、ロシアの為政者たちの歴史的な手口だ。
しかし、ロシアは連邦国家である。現在のロシア連邦内には、純粋なロシア人以外に、200以上の民族が共存している。プーチンが言う民族の「歴史的一体性」などどこにあるのだろうか?
(つづく)
この続きは8月15日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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