第1回 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問

「物価上昇はいつまで続く?」

Q. アメリカでは今年に入って40年振りという形容が付く物価上昇率。消費者物価指数(総合)は、6月に前年同月比9.1%と、今サイクル最高の上昇率を記録しました。直近9月のデータでも8.2%。食事代やガソリン代など、体感としての生活費圧迫はさらに厳しい。いつになったら収まるのでしょうか?

榊原さん:日本の全国消費者物価指数は8月に3.0%の上昇でした。それでもニュースなどで大騒ぎ。先日、欧州から来日した人は「3%で騒いでいるの?」と驚いていました。いや、ひょっとしたらデフレ傾向が続いていた日本でさえインフレが問題になったこと自体、世界的な物価上昇圧力の強さを物語っているのかもしれません。ただし、日本の場合は円安が主因。ドル高でも高インフレ率になっている米国では、根っからの強い要因が働いているようです。

 背景の材料はいくつかあります。一つはコロナ禍の影響で、港湾の人手不足などにより物流コストが上昇したことです。二つ目はロシアによるウクライナ侵攻で、原油などのエネルギーや小麦などの農産品の価格が大幅に上がっています。ウクライナは世界有数の穀倉地帯であり、食糧不足が引き起こされているようです。

 原油価格は、ウクライナ戦争前の2021年から上がっていました。世界的な需要増や再生エネルギーへのシフトによる供給制約も絡んでいます。2019〜20年頃に過熱した米中対立や、自国主義・反グローバリズムも貿易を抑制し、物流や供給に影響を与えていました。今も続く半導体不足は、まさにそこから起因しているとも見られています。因みに、ウクライナは希ガスやレアメタル等といった製造品への投入物資を供給する国でもあります。

 こうした環境へ火に油を注いだのがコロナ禍における各国の超積極的な景気対策。特に米国では、異例の金融緩和に加え、2021年に合計で6.4兆ドル、名目GDP比で約28%、日本円で700兆円規模という巨額の財政出動を打ち出し、一部ではさすがにやり過ぎだったとまで云われました。これだけの刺激策を投入すると、需要が一気に増大してインフレ圧力が発生します。

 この状況に対し、米国連邦準備制度(FRB)は金融政策を大転換し、果敢な引き締めを実施しています。景気にマイナスの影響が出てもインフレ目標の達成にコミットする姿勢を示しており、今の高インフレ率は落ち着いてくると思われます。ただし、金融政策は即効性があるとはいえ、効果の浸透には期間を要するので、来年の半ば頃までにはというようなイメージでしょうか。

 しかし、ウクライナ要因は直ぐには解消しない公算もあると感じられます。景気鈍化で需要面からの物価上昇圧力は弱まりますが、供給面に制約が残れば、インフレ率が下がり切らないスタグフレーション的な状況になる可能性を否定できないです。少なくとも全体像として、80年代から続いてきたディスインフレの局面は終わったのかもしれません。

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
Soleil Global Advisors Japan株式会社の取締役。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。

 

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