連載901 「米中逆転」という未来絵図は幻想。
習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(完)
(この記事の初出は11月1日)
汚職、不正が横行する「縁故資本主義」
日本もそうだが、中国は官民癒着がひどい。「中国型社会主義市場経済」といっても、その実態は「クローニー(縁故)資本主義」にすぎない。
つまり、汚職、賄賂、上納金、談合、中抜きなどが横行する。
日系企業の現地法人の人間からよく聞くのは、「ここでは誰も信用できない。とくに経理担当を現地採用すると、必ず私服を肥やされる」といったことだ。中国では、社内窃盗などは日常茶飯事なのである。
たとえば、今年の8月、中国共産党の汚職監視部門「中央規律検査委員会」は、政府系半導体投資基金の「国家集成電路産業投資基金」(CICF)の丁文武総裁を「重大な規律違反の疑い」(汚職容疑)で調査していると発表した。
CICFは2014年に設立された「半導体ファンド」で、多くの中国の半導体産業に出資してきた。そのトップが汚職をしているのだから、独自の半導体産業などが育つわけがない。「縁故資本主義」は、国内の富を食いつぶすだけで、経済成長の足を引っ張るだけだ。
アメリカ逆転はソ連や日本と同じ幻想
このように見てくれば、中国の今後の経済減速は、日本にとって共倒れになりかねない大きな影響をもたらす。もはや、中国は投資する価値のない国になろうとしている。
習近平は「共同富裕」を掲げ、「貧富の格差を是正し、すべての人が豊かになる社会をつくる」としているが、それは、明らかな社会主義で、国民全員で貧しくなる可能性が高い。日本と同じだ。
円安もひどいが、人民元もドルに対して大幅に下げている。中国政府は、日本と違ってこれを容認・歓迎し、輸出を増大する策に出た。
中国人民銀行(中央銀行)は、10月25日、人民元の中心レートを1ドル=7.1668元と、2008年以来の元安水準に設定した。
そこで、仮に1ドルを7元として、中国の今年度の名目GDP予測(IMF)の約19.9兆ドルを計算し直すと、約17.4兆ドルに減ってしまう。これでは、前記した2029年の「米中逆転」の可能性ははるかに遠のく。
かつて日本経済は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とされ、規模でアメリカ経済を抜くと言われたことがあった。1960年代初期の旧ソ連も同じようなことを言われたことがあった。
しかし、アメリカ経済の自由度、常にイノベーションを起こす力を見ていると、今回の中国も、ソ連や日本と同じく、ただの幻想にすぎなかったということになるだろう。
(つづく)
この続きは12月1日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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