連載995 追い詰められたプーチン・ロシア  ウクライナ戦争で分断された世界経済の今後 (完)

連載995 追い詰められたプーチン・ロシア  ウクライナ戦争で分断された世界経済の今後 (完)

(この記事の初出は2023年4月4日)

 

米「インフレ抑制法」の目的は中国排除

 欧州がこうしたことで揺れる一方で、アメリカは対中戦略を強化させている。中国を、AI、半導体、EVなど次世代産業のサプライチェーンから排除しようというのだ。
 バイデン政権は、昨年、「インフレ抑制法」(IRA:Inflation Reduction Act)を成立させ、エネルギー安全保障政策を強化させた。この法案のターゲットは明らかに、中国である。
 まずは、半導体だが、アメリカは半導体の国内製造に520億ドル(約7.6兆円)の補助金を出すことになった。要するに国内で製造しろというのだ。さらに、中国で製造するとなると、今後10年、規模拡大や技術のアップグレードができないという条件を付けた。
 次にEVに関して見ると、「IRA」は、税額控除を北米で最終組み立てしたEVのみを対象とした。また、バッテリーは、北米ないしアメリカと自由貿易協定(FTA)を結んでいる国から調達した重要鉱物を40%以上含んでいることとした。
 つまり、EVやバッテリーをつくるならアメリカでつくれと言っているわけだ。その結果、欧州企業も日本企業も、アメリカにおけるEV産業への投資を強化することになった。
「これはおかしい」「自由貿易の原則に反している」と、先月、ワシントンを訪問したエマニュエル・マクロン仏大統領は訴えた。アメリカ側の規則は「超攻撃的」だと批判した。しかし、アメリカ側は聞く耳を持たなかった。
 このように、ウクライナ戦争は、アメリカと欧州をも分断するようになった。

もはや「グローバリゼーション」は終焉した

 このまま、ウクライナ戦争が長引けば、世界の経済構造は大きく変わってしまうだろう。それはひと言でいえば、これまで続いてきた「グロバリゼーション」の終焉だ。
 世界経済を促進してきた、ヒト、モノ、カネの動きは、制約を受ける。世界経済は、ブロック化する。
 そうなると、企業も投資家も、ひいては一般の私たちも、それに対応していかなければならない。企業としては、商品の流通、サービスの提供、サプライチェーンなどをどう構築していくか、それぞれのブロック内で対応しなければならない。
 そうしたなかで、やはりもっとも重要なのは、中国依存をどうするかだろう。日本の場合、中国は最大の貿易相手国であり、日本経済の中国依存度は2割を超えている。

「欧米」と「非欧米」の明らかな違いとは?

 世界がブロック化するなかで最大の懸念は、日本を含む欧米を中心とした「欧米ブロック」と、対立せざるを得なくなった中国を中心とする「非欧米ブロック」では、経済の構造が違うことだ。
 石油・天然ガスを例にとると、それを産出できる「欧米ブロック」の国は、アメリカ、英国、カナダ、ノルウェーだけだ。これに対して、中東などのほとんどの産出国は、どちらのブロックとは言えないし、ロシア、イランなどは非欧米、中国側だ。レアメタルにいたっては、ほとんどが非欧米側にある。
 したがって、サウジアラビアが非欧米側に回ったことは、大きな意味を持つ。サウジは、3月29日、中ロがつくる上海機構の対話パートナーになると閣議決定した。
 アメリカで成立した「インフレ抑制法」(IRA)により、G7は団結して中国を制裁し、半導体の先端技術を中国に与えないことになった。
 つまり、半導体産業は、この先、中国とアメリカのどちらかを選ばねばならない。アメリカ側に残るなら中国と縁を切らねばならないし、中国側に行くならアメリカ中心の経済圏から出ていかねばならない。
 これは、ほかの産業にも言えることである。

「キシダノシャモジ」はとんでもない愚行

 G7広島サミットが迫っている。G7広島サミットは5月19日から21日まで3日間開催される。このG7広島サミットのために、岸田首相はウクライナを訪問した。
 そして、持参した手土産は、なんと地元広島の名産品「必勝しゃもじ」。これに呆れたネット言論は、「アベノマスクを上回る愚行、キシダノシャモジ」と批判した。
 いったい、日本の政治家は、いま日本が世界のなかでなにをしたらいいのか、日本の経済のためになにをしたらいいのかわかっているのだろうか?
 G7広島サミットに臨んで、日本がリーダーシップを発揮すべきという意見がある。しかし、日本の政治家はいま世界が抱えている問題がなにかもわかっていないのではないかと思う。おそらく、G7の共同声明には、当たり障りのないロシア非難が盛り込まれるだけだろう。
 今後の日本は、アメリカも中国も、そして欧州も、さらにグローバルサウスも、という曖昧かつ全方位外交では生き残れない。そのことをはっきりと認識して、企業も投資家も、そして一般庶民も、次の時代を生きていかねばならない。


(つづく)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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