津山恵子のニューヨーク・リポート Vol.8

津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.8 越境入国者がN Yに殺到 犯罪人ではない、偏見強く

 

5月11日以降、一日1,000人に上る越境入国者(不法入国者)がニューヨーク市に殺到する可能性がある。メキシコとの国境では、1日11,000人を超える人々が米国に流れ込む。1時間に450人超という驚異的な数だ。  

彼らは、ほぼ身一つで、スーツケースに赤ん坊や幼児をのせて、国境の川を泳ぎ渡る。命を落とすかもしれないジャングルを何日も歩いている。  

なぜ、このような事態になったのか。実は、新型コロナウイルスによるパンデミックの間、越境入国者を追放できるとした「タイトル42」が11日に失効するためだ。統計によると、この措置でこれまでに約100万人が追放された。現在、越境している人々は、今後追放されないことを知って殺到しているわけだ。  

越境入国者らは、彼らが合法的に移民となる手続きを待つ間、米政府や自治体に保護される。ニューヨーク市も、同様に一時的に保護しようとしている。保守的な有権者が多く、合法的な移民さえ批判しているテキサス州が、越境入国者をバスに乗せて送り込んでくるためだ。移民に寛容なリベラルな自治体への嫌がらせである。  

ニューヨーク市には、過去1年で40,000人が手続き待ちで流入している。市はすでに120のホテルをシェルターとして契約し利用している。今後の対策として、セントラルパークにテント村を検討しているというから驚きだ。  

入国者は主に、メキシコ、キューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラからだ。私の近所で親しみがあるのは、メキシコ人で、彼らほど綺麗好きで働き者は見たことがない。レストラン「ハングリー・ブリート」のサーバーらは、暇があると壁まで磨き、手を止めることがない。オーナーのアルマンドまでが、ガラスを磨き、出前を手伝い、忙しい時には食器洗いに入る。この勤勉さで、昨年には2店舗目を開いた。

近所のメキシコ人一家が開いたささやかな
バースデーパーティ(筆者撮影)

移民の殺到による危機は、世界的な「人道危機」を反映している。米国内ですら激しい格差が、南米ではさらに厳しいものになる。通りで無差別に殺され、レイプされないために、人々は米国境を目指す。  

「不法移民が増えると、犯罪が増える」という声もある。米国よりもはるかに経済状況が悪い国々から来る人々を保護するというのは、ある程度のリスクが伴う。  

実は、マンハッタンのレストランでさえ、不法移民を使っているところはあまたある。彼らは保護中の人々と異なり、行動範囲は自由と勘違いし、時には犯罪を起こす。  

こうしたリスクがあっても移民の国であり続ける米国は、政策の転換を迫られているのは事実だ。しかし、「移民の国」だから私たちが受け入れられて住んでいるのも事実だ。

 

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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