第6回 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問

「アメリカのインフレ傾向」

 

Q1. アメリカのインフレが低下傾向にあります。景気後退の兆しもあるのでしょうか?

6月のアメリカの消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比3.0%と、2021年3月以降で最も低い伸び率となり、インフレの低下傾向は明らかになってきました。しかし、変動の激しい食料品とエネルギーを除くコアCPIは同4.8%と依然かなり高めで、FRB(連邦準備制度)が金融政策の判断基準とするPCEコアデフレーターも5月に同4.6%と、物価目標である2%からなお2倍以上の水準です。つまり、インフレ低下は主に食料品とエネルギーなど財の価格上昇が止まってきたことによる動きで、基調となるインフレ動向はまだ上昇圧力が残っているといえます。

雇用統計では、6月に雇用者数の伸びが市場予想を下回り、労働市場は徐々に減速しつつあると示されました。ただ、賃金は堅調な伸びが続いていて、平均時給は3カ月連続で前月比0.4%増、前年同月比では4.4%増加しています。景気は確かに減速の兆しを少しずつ見せていますが、景気後退の兆しというほどブレーキのかかった様子ではありません。

最高裁による「学生ローン返済免除政策」に対する違法判断が若年層の返済不能による破綻急増につながる可能性が取りざたされていることも加わるなど、これまでの金融引き締めの影響その他によって経済活動が鈍化していくとの見方は有力です。ただ今のところ景気は底堅く、金融政策も引き締め局面終了へ近づきつつあるとはいえ、その時が目先に迫っている状況までは来ていないとの判断になるでしょう。

 

Q2. 6月下旬から再び円安が進みました。何が要因となっているのでしょうか?

日米両方の要因があったと思われます。米国側の要因はQ1への回答にもあるように、利上げ打ち止めや、ましてや利下げ局面への距離感がまだ残っているとの観測に見直されたことが挙げられます。年初には、今年の年央頃までに景気とインフレ圧力が鈍化して金融引き締めが終了し、年内の利下げ開始が視野に入ってくるとの予想もありました。しかし、金利はしばらく高止まりしそうです。

この米国側の要因も小さくないですが、日本側の要因はもっと大きかったといえるかもしれません。それは、やはり日銀の動向です。昨年末から日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール)政策の修正や撤廃が近いとの見方が急速に広がる中、新任の植田総裁率いる日銀がどのような路線を取るか注目されていました。特に日本国外の投資家の間で、早期のYCCからのエグジットが最も理に適うとの考え方が強かったようです。しかし、ふたを開けてみると、インフレ目標の実現が達成される前に現行の金融政策を変更することは拙策となるリスクが高く、忍耐強く続けていくことが重要との姿勢を鮮明にしたといえます。

つまり、日本の金利が直ぐには上がって来ない見通しが強まりました。この点だけが背景ではないにしても、こうした日米の金利観が決定的な要因だったとみられます。これが修正されなければ、時々の調整はともかく、年内の持続的で大幅な円高への動きは生じにくくなったように見えます。

 

 

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
Soleil Global Advisors Japan株式会社の取締役。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。

 

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