連載1052 認知症の進行を遅らせる FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (中2)

連載1052 認知症の進行を遅らせる
FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (中2)

(この記事の初出は2023年7月4日)

 

最終治験では27%の人に改善が見られた

 開発元のエーザイなどが公開している情報によると、治験は日本を含めたアジア、北米、欧州各地の235施設で行われた。「第三相臨床試験」(最終治験)では、脳内に「Aβ」の蓄積が確認されたMCIと初期患者の1795人を対象に、「レカネマブ」を投与するグループと偽薬を投与するグループに分けて治療効果が検証された。
 その結果、2週間に1回投与を繰り返し、18カ月後の認知機能の変化を比べたところ、「レカネマブ」を投与したグループは偽薬のグループに比べて27%、症状の悪化を抑制できたという。
 私のような素人から見ると、この27%は、たいした数値ではないと思える。しかし、医療関係者に言わせると、それでも27%が進行を「抑制できた」というのは、認知症においては画期的なことだという。この30%前後の進行抑制効果は、この先の研究開発で、さらに改善できる可能性があるからだ。
 また、これまでは半信半疑だった認知症の進行を完璧に防げるクスリができる可能性が見えてきたともいう。
 しかし、臨床試験では投与患者の13%近くが、重篤な脳の腫れが起こり得る状況を経験したということで、首をかしげる専門家もいる。また、コストの面から見ると、本格的な普及は難しいという見方がある。

日本で承認は? 薬価はどうなるのか?

 日本では、今年の1月16日に、エーザイにより独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請が行われ、1月26日に厚生労働省より優先審査に指定された。
 しかし、以来ずっと審査中で、はたして承認されるかどうかはわからない。当然だが、FDAが正式承認すれば、日本でも承認機運が高まるだろう。ただし、承認されたとしても、問題はいくつかある。
 まずは、薬価。アメリカでの薬価は、1人あたり年間約2万6500ドル(約385万円)とかなりの高額。保険適用されなければ、一般人が払える額ではない。
 また、クスリを使用するにあたっては、MCIとしての診断が必要で、そのためには「Aβ」の蓄積が画像診断(アミロイドPET検査や脳脊髄液検査)で確認されなければならない。さらに、投与は点滴投与で2週間に1度だが、これは看護師が行う必要がある。
 つまり、薬価以上にかなりのコストがかかるのだ。しかも、1度投与を始めると継続して投与していく必要がある。
 とはいえ、レカネマブによって認知症の進行が本当に抑えられるなら、患者は殺到するだろう。
 日本での承認と保険適用について言えば、承認されても保険適用は難しい。というのは、薬価の問題もあるが、投与とセットで前記した認知症の画像診断(アミロイドPET検査や脳脊髄液検査)も一緒に承認・保険適用されなければならないからだ。
 ちなみに、「アミロイドPET検査」は、現在、保険適用されていないため、日本では約30万円かかる。
 ここで、身もフタもないことをまた書くが、どんな新治療もカネ次第。現代は、生命、健康はおカネで買える。富裕層が健康で長生きする時代である。


(つづく)

この続きは8月3日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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