連載1056 岐路に立つバイデン・アメリカ  「学生ローン」「人種優遇」停止で経済失速も? (中1)

連載1056 岐路に立つバイデン・アメリカ 
「学生ローン」「人種優遇」停止で経済失速も? (中1)

(この記事の初出は2023年7月7日)

 

もはやマイノリティ優遇策は必要なし

 ではまず、アファーマティブ・アクションから見ていきたい。これは、人種差別是正のため1960年代に導入された措置で、簡単に言うと、黒人系やヒスパニック系などのマイノリティには入学時にゲタを履かせて、積極的に入学させるというもの。
 といっても、ほぼ黒人に対しての優遇措置で、最高裁は、学問の自由を根拠に「人種的多様性を確保することは公正である」としてきた。
 しかし、近年になって、「それが白人に対する逆差別ではないか」という声が強まった。というのは、黒人学生が増えたのはいいが、それ以上にアジア系アメリカ人学生が増えたからだ。保守層が、こうした状況を許容できなくなったのが、いまのアメリカだ。
 次は、最高裁で問題とされたハーバード大学の人種構成である。

白人 48%
アフリカ系アメリカ人 7%
アジア系アメリカ人 20%
ヒスパニック・ラテン系 11%
多人種系 7%
留学生 12% 

これを保守層は気に入らないのだが、そんなことより、すでに、アメリカの人口構成がアファーマティブ・アクションなど必要としなくなっていることのほうが大事だ。いまやアメリカは、どの人種もマジョリティでなくなりつつある。
 次が、2020年のアメリカの国勢調査による人種構成である。

白人 57.8%
アフリカ系アメリカ人 12,1%
アジア系アメリカ人 5.9%
ヒスパニック・ラテン系 18.7%
ネイティブアメリカン0.7 %
混血その他4.6% 

この構成を見ればわかるように、アファーマティブ・アクションによるマイノリティ優遇は、すでに使命を終えている。あと10年もすれば、白人人口は5割を割り込むとみられている。しかも、多様性があったほうが、デジタルエコノミーにおいては競争力が高まる。
 また、アメリカの大学入学は、日本のように偏差値、試験の点数重視ではない。レガシー枠もあり、合格・不合格の基準は、各大学のアドミッションから公表されていない。
 しかし、学生ローンの免除のほうは、経済に大きなダメージを与える。

学生ローン免除はなぜ違憲なのか?

 バイデン大統領は、昨年8月、連邦政府が提供する学生ローンを免除すると宣言した。これは、大統領選挙時の公約で、ローン返済に苦しむ大学生および卒業生にとって待ちに待った公約の実現だった。
 アメリカには連邦政府を貸し手とする学生ローンの借り手が約4500万人いて、その総額は約1.6兆ドル(約230兆円)とされる。これらの借り手のうち、返済義務のない連邦奨学金(ペルグラントと呼ばれている:Federal Pell Grant)を受給している者については2万ドルを、非ペルグラント受給者については年収12万5000ドル未満であれば1万ドルまでの返済を免除するというのが、この免除政策だった。
 バイデン政権によれば、借り手約4500万人の95%に当たる約4300万人がこの策の恩恵を受け、そのうちの約2000万人の債務が完全に帳消しになるとされた。
 しかし、今回、この免除措置を野党・共和党が優勢な州が、「バイデン政権の学生ローンの返済免除は政府の権限を逸脱している」などとして差し止めを求めて提訴。これを受けて、最高裁がこの提訴を認めたのである。
 最高裁が提訴を認めた理由は、返済免除の法的根拠が希薄だということ。大統領が根拠とした法律には、そんなことを実行する権限がないというのである。


(つづく)

この続きは8月9日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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