タックスリターン基本情報

 

米国内で収入を得たら、税金の申告は義務です。雇用主が年末調整という形で税を納める日本と 異なり、米国でタックスリターン(確定申告)は個人の責任になるため、早めに手続きを済ませるこ とをお勧めします。タックスリターンの基本情報を専門家の方に伺いました。

佐山 真理 米国税理士

Enrolled Agent(米国税理士)、The National Tax Practice Institute Fellow. Pro Bono Panelat Low Income Taxpayer Clinic. アメリカ大手会計関連会社でCPA、税理士、弁護士等が作成した確定申告書に対する監査業務を行う。SAYAMA TAX OFFICE, LLCを設立、アメリカ確定申告書作成、税務相談、国際税務などの税理士業務の他、代理人としてIRSだけでなくNY、CAをはじめとした各州税務署の税務調査交渉業務を行っている。

タックスリターン基本情報

アメリカのタックスリターンは納税者に申告の責任があり、自ら調べ、納税する義務があります。2024年度の期日はマサチューセッツ州、メイン州を除いて4月15日です。これは申告書類を作成し、納税をする期日です。延長申請を提出することで提出期日を10月15日まで延長できますが、税金の支払い期限は延長することができません。4月15日までに収めるべき税金を支払っておかなければ、その時点でペナルティが生じます。しかし、投資などを行なっている場合は、申告に必要な書類を取り揃えるのに時間がかかり、提出が秋頃になるのも珍しくありません。その場合は4月15日までに予定納税を行い、延長措置を申請すれば支払延滞のペナルティーは回避できます。

申告対象になる人はグリーンカードや市民権などを持つ人だけでなく、アメリカに一定期間居住した人は外国籍であっても税法上の居住者とみなされ、日本も含めた世界中から得た収入がアメリカで申告対象になります。税法上の非居住者は一般的にアメリカからの収入が申告対象です。税務署は納税者が提出した申告書に記載されている金額をそのまま還付処理します、しかし後日、申告書の正誤性を調査し、間違いがあれば追加のペナルティーを課してきます。過失の間違いの場合は提出後3年ほど、悪質な脱税とみなされれば半永久的に税務調査にかけられる可能性があります。

アメリカでは税金の計算は、総家庭内収入ではじき出されます。会社員としてお勤めでも、そのほかの収入が少しでもあった場合、それらも申告対象になります。よく見受けられるのは、配偶者の方に収入がある、株などの投資収入がある場合に申告を忘れてしまうことです。奥様は扶養家族ではなく、ご主人と同様に申告筆頭者とみなされ同等の法的責任が生じます。ジョイントリターンで申告した場合ご夫婦それぞれが同等に法的責任を負うということとなります。仮に奥様の収入が少額であっても、申告する必要があるのです。

申告対象収入の具体例を申しますと、日本で働いたお給料もそのひとつですし、日本で賃貸物件を所有している場合も対象となります。また、多く見受けられるパターンとして、アメリカにいらっしゃるご本人の親族が日本で会社を経営されており、便宜上その会社の役員などの名義に入っている、または株主になっている、そのような方はそこからの収入だけでなく、特別な申告書をIRSに提出しなければならない場合があります。

上記のような例は数年の短期滞在の方であっても当てはまる場合があり、ご本人が予想していない申告作業が発生することがあります。申告漏れはペナルティの対象となりますのでご注意いただきたいと思います。

その他、収入を得る方法として最近身近になってきたのはYouTube、インスタグラムなどです。趣味で始めたソーシャルメディアから思いがけず収入を得る場合もあるかと思います。オンラインでの収入も対面と同じように課税対象になるため、趣味の範囲であっても申告対象になります。仕事としての収入は経費申請ができますので、その点もしっかりと利用していただければと思います。

また、多くの方の相談を受けて感じることとして、日米租税条約についても誤った解釈を持っている方がいらっしゃいます。

例えば、Jビザの方などすでに消滅している租税条約を使って確定申告作業進めている方が依然多いのに驚かされます。IRSの公式HPではなく、個人が発信している簡易的な情報によって、思い違いをされている方がいるようですが、最新の正しい情報を使うことが大事です。

複雑な決まりがあるタックスリターンですが、日本での収益、アメリカでの収益に応じた納税をどこにするかは法律、または条約で細かく決まっています。法律に基づいて、正確な申告を行なっていただければと思います。

2024年のポイント

本年より施行される新しい法律により、会社の持ち株や権利の分配をFinCENに申告しなければいけません。これはBOI(Beneficial Ownership Information)といい、アメリカに会社を持っている方、またアメリカで業務を行なっている日本の会社が対象になります。これは内容が変更する度に適宜更新する必要があります。ご自分でもできる簡単な申告ですが、未申告にはペナルティーがありますのでご注意いただきたいと思います。

 

ここ数年で見受けられる注意する点

IRSには通訳部門があり、税務調査の通訳サービスやIRSの書籍を翻訳しています。まだまだ日本語のものは少ないですが、IRSの重要な書籍の殆どは多言語翻訳されています。どのようにして非英語話者に正しい情報を伝えることができるか、外国籍の方に正しい申告をしてもらうにはどうしたらいいのか、というのはIRSが近年取り組む課題の一つのようです。それに伴い、ここ数年、IRSの海外調査部門が拡大されてきています。IRSと日本の国税庁との協力体制も整ってきています。州で言えばNY州税法は他州と比べてみてもとりわけ複雑です。例えばNY州に一定期間州内に居所を持っている場合等は居住者とみなされ、州外からの収入も申告対象となる場合などがあります。アメリカと日本、または複数の州で仕事をされている方は自己判断ではなく、しっかりと調べたうえで申告を行なっていただきたいです。

 

最後に

毎年更新されるIRSの細かな取り決めを把握し、正しい申請作業を行うことは容易ではありません。もし、ご自身の身の回りの状況を見てご不安を抱かれたら、専門家への依頼をお勧めします。自分で調べて申告書を作る場合は正しい情報を使うことです。会社の確定申告サービスを利用しながら、勤め先に不動産所得や投資利益を知られたくない等の理由から、すべてを申告しない人がいますが、申告漏れがあった場合、結果として大きなペナルティを請求されるのはご本人です。申告漏れのない書類を作ることで、ペナルティーを受けないようにすることが結果的には大きな節税につながります。

タックスリターンの間違いで生じるペナルティ金額は、それぞれ対象のものにより異なりますが、日本の方がイメージする金額よりも遥かに高額になります。

アメリカの申告では間違いを見つけても放置せずに、自主的に正していく姿勢がもとめられます。ご心配がある方は専門家に相談されるといいでしょう。

 

スモールビジネスの確定申告で注意する点
(飲食店などのオーナー向け)

パートナーシップやコーポレーションなどで企業した方が、立ち上げ後にタックスリターンの申告を怠ってしまうということが多く見受けられます。要因として、ビジネスアドバイザーのような方が起業まで手厚くサポートをしてくれても、その後の会社運営や会計税務などはノータッチということがあるようです。パートナーシップやコーポレーションというのは、利益がなくても毎年確定申告をする義務がありますので、タックスリターンを忘れずに行なってください。

また、アメリカで会社を立ち上げる際は、どういった形態で起業するのが良いかをしっかりと検討されるといいでしょう。アメリカ国外で事業を行う会社、個人のなかには、日本などで会社を設立して事業を展開されている方がいますが、そういった方、米国居住者(会社、個人)が決議件の一定割合、または一定の持ち株を保有することで、IRSに特別な申告書(Form5471,Form8992等)を提出しなければならない場合があります。

一方で会社が申請できる控除、必要経費、ドネーションや健康保険等の控除はもちろん、スタートアップ償却、や減価償却などの節税対策は会社形態や申告年度でかわってきますので、適切な節税対策を行われるといいでしょう。市販の会計ソフトなどを利用して、日ごろからきちんと会計記録をつけることで、申告時の控除申請が容易になります。

タックスリターンについてのご相談は専門家へ

タックスリターンには確定申告の知識が必要となるため、申告書類は市販のソフトウェアを使って作成するか、税務の専門家である会計士や税理士に作成を依頼する方法が一般的となっています。自身による書類作成は、コストを抑えるには有効なように思えます が、書類の不備や誤りなどにより IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)から問い合わせがあった場合を考えると、知識と経験を備えた専門家に依頼することが安心です。

佐山米国税理士事務所
尾崎真由美会計事務所
GIIP日米国際会計事務所

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