2:デルシー・モレロス展
デルシー・モレロス(Delcy Morelos)展 (ディア・チェルシーで7月20日まで)
メグ・ウェブスター(Meg Webster)展(ディア・ビーコンで長期)
時代が変わり、ディア・チェルシーとディア・ビーコン では現在、二人の女性作家のランド・アート作品が設置されている。 飛行機の格納庫大の空間を二つ持つディア・チェルシーでは、デルシー・モレロス の個展が開催されている。1967年に南米コロンビアで生まれたモレロスは、カルタヘナ美術学校で学び、ボゴタに住んでいる。ディア・チェルシーには大規模なインスタレーション作品『Cielo terrenal (Earthly Heaven)』と 『El abrazo (The Embrace) 』が展示されている。入場は無料。
「Dia」のピンをもらい、ドアの向こうにある最初のスペースに『Cielo terrenal (Earthly Heaven)』がある。なんだか暗くて何も見えない。地下に下りて行くようだ。白いシートが歩道のように敷かれていて、そこから出てはいけないとスタッフに言われる。天窓から外の光が少し入ってきている。真っ黒な作品らしきものが床の上の低い位置に置かれている。シートの上を歩きながら、数カ所に作品群があることに気がつく。目が暗さに慣れてきたからだ。ほんのり匂うのはシナモンとクローブ。モレロスは視覚だけでなく嗅覚も刺激する。コロンビア北部にあるアンデス山脈で農業を営む人々が、収穫時に母なる大地に感謝を捧げるのに使用する。一面に置かれた黒い土はビーコンから30分離れたハドソン渓谷から運ばれて来た。黒い土は肥沃を表す。1カ所に、大きめのタネ、又は銃丸のような固まりが並んでいて、コロンビアの歴史から切り離せない暴力を彷彿させる。今年1月のアートニュース誌の記事によると、これらはコロンビアの先住民ユクナ族と共にアマゾンの土で作った焼き物だという。土は国外から持ち込むことが禁止されているので焼き物として持ち込まれた。床からの約1メートル程のところに土を塗った線がある。これは2012年のハリケーン・サンディーで洪水が浸水したところを示している。チェルシー地区全体がこの洪水の被害を受けた。同時にコロンビアを流れるアマゾン川が大洪水を頻繁に起こし、被害を出す自然現象も表している。作品の題名Heavenly Earthは、天空、空を想像する。でも、彼女は死後に戻って行くのは地面、そして次の命がそこから生まれ育つ、と語っている。
デルシー・モレロスの二つ目の作品『El abrazo (The Embrace) 』の展示スペースは、片面が全て窓で、屋外の歩道を見渡すことができる。前の作品とは対照的に、この作品は格納庫を思わせる高い天井の架に届くまで土を盛り上げた山である。ディア・ビーコンから持ち込まれた茶色の土、モレロスは土の色をパレットのように使っている。ここでもシナモンとクローブの香りがほんのり匂う。嗅覚だけでなく、この作品は触覚も刺激する。「気を付けて触ってください」との掲示があった―「その手に耳を傾け、土の匂いを嗅ぎ、指先で味わい、肌で感じてください」。土に混ぜられた藁が室内に吹き込まれる空気に揺れるのが見える。作品の後ろ側に行くと、山が二つになっていることがわかる。2つの山の間はV字になっていて、その中に入っていくと、土に抱え込まれる(embrace)。作品は床から1フィートくらい上に作られていて、巨大な構造が浮いているように見える。モレロスは、聖なるものとして考えて欲しい、という。母なる大地を祭るこの作品は、すでに何千年も前に作られていたものかもしれない。私は見た瞬間、古墳を思い浮かべた。
モレロスは2022年ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展で注目を浴びた。ディア・チェルシーでの今回の個展は、アメリカで初めての展示会である。アメリカで2番目の個展はセントルイスのピューリッツァー芸術財団(2024年3月8日~8月4日)で開催されている。ニューヨークのマリオン・グッドマンMarion Goodman 画廊が彼女の作品を取り扱っており、昨年はパリの画廊で個展が開かれた。

『Cielo terrenal (Earth Heaven) 』 2023

『El abrazo (The Embrace) 』2023
この続きは5月13日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
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文/ 中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセアサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴37年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
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