今年もゴールデンウィーク(GW)がやって来る。GWと言えば、そのちょうどど真ん中の5月3日に「憲法記念日」があるため、毎年、憲法論議が盛り上がる。今年も同じだ。
ただ、今年は岸田首相が自民党の悲願である「改憲」の発議を総裁任期中にする意向のため、いつもとは違う。すでに、衆議院では衆議院憲法審査会が開かれ、与野党の論議が続いている。
しかし、「改憲」と「護憲」という論議は、いくらやっても虚しいだけだ。争点である「第九条」を改正して新憲法を策定しても、日本の真の独立は得られないからだ。
GW直前の4月28日が、そのポイント。1952年のこの日、日本の国のかたちを決めた「サンフランシスコ平和条約」(SF条約)が公布・発効された。このSF条約がある限り、日本の真の独立はない。
改憲の条文案の起草めぐる議論は平行線
衆議院では、憲法審査会が開かれていて、自民党などの与党側は「論点は出尽くしている。速やかに憲法改正の条文案の起草作業に入るべきだ」(加藤勝信・前厚生労働大臣)と主張しているが、立憲民主党など野党側は反対している。
立憲民主は「論点は多岐にわたるので、まだ数年単位の議論が必要」(奥野総一郎・議員)と尊重論を展開、共産党は「そもそも裏金議員に憲法を審査する資格はない」としたうえで、「改憲は自衛隊を米軍指揮下に組み込み、米軍の手足となって海外で戦争することになる」(赤嶺政賢・議員)と、強く反対している。
改憲発議に賛成なのは、自民、公明、維新、国民民主など4党1会派で、反対なのは立憲、共産などであり、このままでは、議論はどこまで行っても平行線である。
9月をめどの「改憲」発議と首相訪米
憲法改正は、自民党の“悲願”である。岸田文雄首相にいたっては、9月の自民党総裁任期満了までの憲法改正を広言してきた。つまり、改憲は彼の公約である。
よって、「改憲発議ができなければ、岸田政権は終わりになる」という自民党幹部もいる。
岸田首相が改憲を急ぎたいのは、“悲願”とともに差し迫った現実的な理由がある。それは、先日、国賓待遇で招かれ、バイデン大統領との首脳会談、連邦議会スピーチなどで、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と強調したからである。
なんと、連邦議会スピーチでは「米国は独りではない」と述べた。これは、日米同盟が「日米安保条約」(Japan-U.S. Security Treaty)が規定する“片務”ではなく、双務的な軍事同盟であることを意味している。つまり、日本はアメリカとともに戦うと言っているのだ。
となると、現行憲法の規定を超えてしまう。つまり、第九条の改訂をしなければ、「米国は独りではない」はリップサービスになってしまう。
盛り上がる右派言論「軍の保持を認めよ」
岸田首相の改憲姿勢を受けて、保守(右派)言論は、盛り上がっている。とくに、今回の訪米に際しては、改憲要求がいっそう強くなった。
たとえば、八木秀次・麗澤大学国際学部教授は、こう言っている。
《「グローバル・パートナー」と称した以上、集団的自衛権の行使に限定があってはならない。中国・ロシア・北朝鮮などの権威主義国家に対し自由社会を守るために同盟国・同志国と連携しなければならない。国内事情を理由に集団的自衛権の行使をためらうことは許されない。そのためにはフルスペックでの行使を可能とする憲法改正が求められる。》(ZAKZAKのコラム 4月20日)
また、右派言論の中核、産経新聞は社説(4月8日)でこう述べている。
《自民は立民による事実上の審議拒否を許してはならない。立民の抵抗に引きずられるのではなく、政権与党として議論を前に進めていく責任がある。今後、立民が再び審議を拒めば、同党抜きで開催すればよい。》
《憲法改正に国防規定がないことも深刻に受け止め、軍の保持を認めるべきである。自民や維新は第九条への自衛隊明記を主張している。これだけでは本来不十分だが、第一段階の改正としては意義がある。》
(つづく)

この続きは5月23日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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