ニューヨークの日本人コミュニティには、数知れないサクセスストーリーがある。その成功のお陰で、日本文化やビジネスがアメリカに根付いてきた。
人気ステーキハウス、来年20周年 日本人に愛されて、支え合う
エンパイア・ステーキ・ハウス共同オーナー
ジャック・シナナジさん

人気レストラン、エンパイア・ステーキ・ハウスは、日本とのゆかりが深い。4月末には、HISとの協賛で参加費無料の「ニューヨーク日系人異業種交流会」を開催した。遠藤彰首席領事、三浦聡ジェトロ・ニューヨーク事務所所長ほか、先着100人の募集に対して150人以上が応募した。米在住数十年のベテランから、最近日本からきた人まで、幅広い日本人・日系人が交流した。日本人コミュニティに対する思いを、共同オーナーのジャック・シナナジさんに聞いてみた。
―先日のイベントは、非常に盛況でした。
エンパイア・ステーキ・ハウスは、2025年で20周年を迎えるが、17年に開店した六本木店を含めて、これまで日本の人たちに、非常にお世話になったし、日本の人たちの協力がなければ、今日の私たちはありませんでした。今回のイベントを通じて、少しでもその恩返しができたら光栄です。
―日本人との出会いは、どのような経緯だったのですか?
私は20歳の時、一文無しでモンテネグロからNYにやって来ました。Helloを含めて3つほどの英単語しか話せず、最初はテーブルの準備をしたり、食後の皿を片付けたり、ウェイターの手伝いをするバス・ボーイから始めました。その後バーテンダーとなり、自分のピザ屋をしたのちに、ステーキ・ハウス業界に入りました。
Peter Luger Steak Houseで経験を積み、兄弟でBen and Jack’s Steakhouseを05年に開店しました。その直後に、Peter Luger時代の評判を聞いてか、日本人のお客さんが来てくれました。食事をたいそう気に入ってくれて、最後にオーナーのJackに挨拶をしたいと言ってくれた。
当時私は、オーナーでありながら、ウェイターとして店にでていたのだが、そのお客さんに呼ばれて行くと、お客さんは「ウェイターのJackではない。オーナーのJackだ」と言います。私がまだ若かったことや、お客さんも英語があまり得意でなかったこともあり、お互い不思議な顔をしていたが、最後はわかってくれました。
それ以降も私のことを気にいってくれて、多くの日本人が店に来てくれるようになりました。
―オーナーなのに、なぜウェイターをしていたのですか?
ウェイターは、レストランの顔だからです。常々、料理はもとより、お店に入ってきてくれた時の挨拶に始まり、お店を出ていく際のお礼まで一貫したサービスが重要だと考えています。ニューヨークの基準では、一人一人の役割が決まっている分、同じ店でも他の従業員のサービスには、あまり干渉しません。
でも、レストランとしては、それではダメなんです。一人がミスをしただけで、お客は戻ってこないのです。やはり、従業員全員が一体となって、サービスを提供する必要があり、そのことを従業員に分かってもらいたかったためです。

(写真提供:Empire Steak House)
―日本にも何度も行かれているそうですが、日本の印象はいかがですか?
誰もが丁寧なところが素晴らしいと思います。日本のレストランでは、従業員誰もがきちんと挨拶をします。また、日本人は、一つ一つの料理をよく噛んでしっかりと味わい、見た目も含めて、料理を非常に丁寧にあつかい、楽しんでいます。また学校では、自分たちで掃除をおこなうように、子供のころから丁寧さや規律を重んじた教育を受けていることも素晴らしいと思います。
―今後は、どのような展開を考えていますか?
人類の長い歴史を見渡すなかでの肉食の重要性を考えると、時代が変わっても、ステーキというのは、重要な“食事”の一つであり続けるでしょう。ステーキの大きな肉が、大きな皿にのってきたとき、それを見るだけでも幸福感を感じてくれる人も多いのではないでしょうか。
一方で、昔はステーキと言えば、正装をして食べるなど、敷居が高いものだったが、今ではだいぶ気軽になってきていて、時代にあわせて変化する必要もあります。
日本には“和牛”と呼ばれるように、素晴らしい肉文化があるので、より多様な和牛の楽しみ方を含めて、うまくアメリカのステーキ文化と融合させた形も模索してみたいです。
その場合、ステーキとワインのように、和牛にも、日本ならではのカクテルやアルコール飲料の組み合わせが重要で、新たな“ステーキ・ハウス”の形になるのではないかと思っています。
日本では、最近大幅な円安の影響や外国人観光客の急増により、外国人観光客と国内日本人とで異なる値段で、食事を提供するレストランが出てきていると聞いています。この急激な円安は、こちらにいる日本人にとても大変なので、私の店では、円安にあわせて、日本人のお客さんにはより安い値段で提供しようかと思っています(笑)。その分は、今度逆に円高になった時に、高く払ってくれればいいのですから(笑)。
最初にも述べたように、日本人のお客さんなしには、今の我々もありませんでした。苦しいときは、お互い助け合ってお互いにニューヨークを楽しめればいいと思います。先日のような交流会は、一年に一度はできればいいと思うので、次回はもっと多くの人に来てもらえるようにしたいですね。
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