
「日本酒がこんなに盛り上がっているなんて、10年前は想像できなかった」、ニューヨークに30年以上住んでいるという来場者はうれしそうに話す。先日、ニューヨーク・ブルックリンで35の酒蔵が集まる日本酒イベント「World Sake Day」が開催され、大盛況のうちに幕を閉じた。
◆ 過去最大規模「当時は4社ほどしか…」
アメリカ人が手掛けるニューヨーク初の酒蔵「ブルックリン・クラ(Brooklyn Kura)」や「獺祭」酒蔵のアメリカ進出、日本酒バーに若者が集う姿など、ニューヨークの酒シーンに「日本酒」が浸透してきた昨今。今回のイベントは、ニューヨークで日本酒を盛り上げたいと奮起した日本人コミュニティーが2021年に始めたイベントで、今回で4度目の開催となる。


ブルックリン・ブッシュウィックで酒蔵併設のバーを営む「Kato Sake Works」のオーナー、加藤忍さんも、同イベント発起人の1人。「今回の場所で開催されるまではもっと小さな会場でやっていたんです。初めは”何か持ち寄ってやる?”といった感じで、地元の人たちにもっと日本酒を知ってほしいと4ベンダーで始めたことが、この『World Sake Day』の始まりで。当時はここまで大きくなるなんて思ってなかったですね」

マンハッタンが見渡せる会場で行われた
◆ ニューヨーク=日本酒のるつぼ?
入場料は80ドルで、会場に並ぶ70種以上の日本酒が試飲し放題。夕方4時から始まったイベントも夜6時前には大にぎわいで、若者から熟年層まで、ローカルの人々で活気に満ちあふれていた。参加した酒蔵は「菊水酒造」「剣菱酒造」「朝日酒造」など日本でもなじみのあるブランドから、近年「獺祭BLUE」でアメリカ進出した「旭酒造」に、前述で触れた「Kato Sake Works」、そしてアメリカ人が立ち上げたローカルブランドも数多く並んだ。

「獺祭BLUE」の代表を務める霜鳥健三さん
Photo : Keiko Tsuyama
雫のような美しいボトルが目をひく「HEAVENSAKE」の純米吟醸は、日本酒に惚れ込んだオーナーが「どんなシーンでも合う、視覚的にも新しい日本酒を作りたかった」という思いから生まれた商品。人種のるつぼならぬ「日本酒のるつぼ」のような顔ぶれが、会場を盛り上げ「これをマンハッタンでなくブルックリンで開催するところも面白いし、日本酒がここまで人気になるなんて」顔を赤らめながら、来場者は笑顔で語ってくれた。

Photo : Keiko Tsuyama
◆ 街角にはファストフード×日本酒
ニューヨークの日本酒市場は、パンデミックが明けた2021〜2022年頃「外食ブーム」とともにバブル期のような爆発的人気を見せた。2024年時点では当時ほどの急激な高まりはないが、「確実に需要は伸びている」とアメリカを拠点に日本酒の卸しを行うSAKEMANこと下村琢哉さんは話しており、最近街中では意外な掛け合わせも見られているんだとか。

実は神戸で作られている Photo : Keiko Tsuyama
ブルックリンにあるタコス店「WARUDE」では、「黒牛」の純米吟醸(ワンカップ)が置かれていたり、マンハッタン・ローワーイーストサイドで行列が絶えない「Scarr’s Pizza」ではコーラやスプライトの缶に並んでパックタイプの「鬼ころし」が販売されている。品質の良さや食べ物とのペアリングから日本酒が広がっている一方、「ビジュアル」として日本酒が飲食シーンに重宝され始めているのは、ニューヨークならではの面白い動きとも言えるだろう。

◆ 「人のつながりの温かさを感じました」
イベントの主催者、古矢美花さんは今回の「World Sake Day」を振りかえり、「予想以上の来場者があり達成感があったのと、多くのゲストの方たちが『楽しいイベントだった』と声をかけてくれたのが1番うれしかったですね。ロケーションと天候も功を奏したと思います。あとは私事ですが、これまでこのイベントに毎年来てくれる人が来てくれたりと、人のつながりの温かさを感じました」と話す。

「酒蔵さんやお酒を作っている人たちと、こうしてひとつの場所に集まれるというのは貴重な機会だと思うので、それを続けてもっと日本酒に親しんでもらう機会を増やしたいです。展望としては、リーズナブルなお酒で揃えているイベントなので、上級者向けのイベントも企画したいですね」

ここから数年、日本酒がどんな広がりをしていくかはまだ予想ができないが、きっと新たな反応を起こしてくれるに違いない。ニューヨーク観光に来た際は、この土地ならではの日本酒カルチャーを嗜むことも頭の片隅に置いておいてほしい。
取材・文・写真(一部)/ナガタミユ
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