眩しいほどの活躍で日本、世界中を虜にする大谷翔平選手。彼が出場する試合、投げる球、ホームランのすべてがリアルタイムで話題になる背景には「生中継」があり、そこには1秒の世界で戦うスタッフたちの「もうひとつの大リーグ」がある。
今回は日本にメジャーリーグを生中継している唯一の放送局「NHKコスモメディアアメリカ」(ニューヨーク・マンハッタン)に潜入し、ディレクター・水野舞さんをはじめとする、放送の裏側に密着した。

(ニューヨーク・マンハッタン)の放送室
◆ 日本で数百万人が注目する「生中継」
現在、日本へのメジャーリーグ中継権利を持っている同局は、年間約200試合をこの放送室などから日本に生中継している。10時間以上の時差がありながらも、やはり大谷選手が登板する試合の視聴率は高く、数百万人の視聴者が存在する。

(向かって右から)プロデューサー、ディレクター、テクニカルディレクター
そんな試合を心待ちにする日本のファンのため、通常は15〜20名、オールスターやワールドシリーズなどの大きな試合になると40名ほどの力を集結させて中継映像が作られる。約3時間の試合時間中は現地にある約20台のカメラ(同局の専用カメラはそのうち4台)が試合、そして大谷選手の活躍を追う。
◆ 「台本のない映画やドラマに作り上げる」
「メジャーリーグの面白さを日本の方々にもっと伝えていきたい。野球というライブで起きているスポーツを、台本のない映画やドラマに作り上げるのが中継ディレクターの役割だと思っています」そう語るのは、14年にわたりディレクターを務める水野舞さん。
もともと野球が好きで海外にも興味があった水野さんは、アメリカでMLBのディレクターを探していると聞いて当時の制作会社を辞め、今の役職に飛び込んだとのこと。

ディレクターを務める水野舞さん
「野球というスポーツが特別なのは、1球ごと、1アウトごとに間があることだと思っています。その間をどう描くのかはディレクターによって大きく変わってきますし、ディレクターの腕の見せ所です」その眼差しは熱く、「彼女はこの仕事が面白くてたまらないんだと思う」と、代表の皆木弘康さんも太鼓判を押す。

「その場面場面でフィールドにいる登場人物の誰に寄り添うかによって、間を埋めるシナリオが変わってきます。例えば1点差、2アウト満塁の時に、誰に感情移入をするか。ピンチのピッチャーなのか、心配そうに見守る監督なのか、得点を取りたいバッターなのか、逆転を期待するファンなのか、無限にあるシナリオのなかで、今その状況で誰に感情移入をするかがベストかを瞬時に考えて絵をチョイスします」(水野さん)
◆「事前に考えていたシナリオが『ハマる』時」
ちなみに取材した日は、大谷選手とダルビッシュ有選手の直接対決の日。きっと視聴者は試合の行方はもちろん、ヒューマンドラマも気になるところ。
2人が対峙するシーンになると、放送室には「(大谷選手が)挨拶した」「はにかんだ!」と、彼らの動向に関わるコメントが飛び交っていたのだが、このシーンについては「2人の関係性や今までの対戦を見ていると、おそらく大谷がダルビッシュに挨拶をするだろうなという予測のもと、カメラを2人の顔のアップに置いておきました。その結果、大谷がダルビッシュに笑顔で軽く挨拶をするというシーンを切り取ることができたんです」と、水野さんは振りかえる。

「ディレクターは中継チームの舵を取る役割であり、こうして自分が事前に入念に考えていたシナリオが放送内で『ハマる』と、カメラマンを含めスタッフがどんどんと乗ってきてくれて、阿吽の呼吸で放送が進む楽しい時間帯が起きることがあります。その一体感を感じた時はとてもやりがいを感じます」
我々視聴者が普段テレビで見ているのは、ただ「球場で起こっている出来事」ではなく、中継スタッフの手を介した ”映像作品” なのだ。生中継を見る際は「ディレクターが思いをこめた『シナリオ』をぜひ想像して中継を見てほしいです」と、水野さんは期待を込める。

なお現在、同局の生中継は日本国内でしか見ることができない。このストーリーテリングが散りばめられた素晴らしい生中継が、日本だけでなくアメリカ国内でも見られる日を心待ちにしたい。
取材・文・写真/ナガタミユ
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